2008年12月31日水曜日

粉飾は犯罪です

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さて、今年も今日で最後です。今年の締めは適当に雑文でも書いてお茶を濁そうかと思ったのですが(かといって普段の文章が雑文でなくて何なのかという気もしないでもありませんが)、出張&プライベートの旅行から帰ってきてみれば、ビックカメラが過年度の財務諸表を修正するという話が。この年末の押し迫った時期に何してんのかね、とも思うのですが、去年までは中間決算の監査報告書が出る時期で、何かがあったときにここで直しておかないと期末でいじれないということも出てくるので、仕方がないといえば仕方がないのですね。そういえばこのあたり、四半期になってどうなったのですかね。1Qに対応しなかったから継続性云々の話になるのは、実務上時間がなさ過ぎると思うのですが。。。

ところでこのブログ、なんとなく何かを言いたくなってはじめたわけですが、自分でも何が言いたいのかよくわかっていませんwただ、会計ってのは会計そのものが物事の本質たり得ないのに、みんな、なぜそんなに会計にこだわるのか、それが不思議だったのですね。というのは、会計上の数字をいくらいじくったところで、いかに操作したところで、起こった事実は曲げようがないわけです。なのになぜこうして、明らかに意図的な「正しくない会計処理」が後を絶たないのでしょう。

逆に考えれば、これだけ数字をいじりたくなる人がたくさん出てくるということは、いじった結果がそれだけ何らかの効果を発揮しているはずです。それはおそらく、未来に対する影響力なのですね。そして、それが未来に対して影響力を持つためには、情報の非対称性が前提になるわけです。つまり、知らぬは投資家ばかりなり、という状況があって初めて、未来に対して影響力を持つことになります。だからこそ、監査、という制度が必要なのですね(その制度設計の是非はともかく)。

それにしてもこれ、恐ろしい話だと思いませんか?すでに生じた事実は変えられないのに、会計上の数字をいじれば、未来が変化するんですよ。だから、自分だけに都合のよいように数字をいじって資金を集めれば、それは詐欺的な犯罪行為ということになります。ビックカメラの公募増資は、まさにそういうことなんですね。犯罪と言って語弊があるなら、非道徳的とでも言っておきましょうか。本人たちに「その気はなかった」という言い訳を与えるような話ではなく、結果的にそうなったことを重視すべきであろうと思います。

それならなぜ会計処理に選択肢があるのか、選択肢など認めず、だれでもどんな状況でも同じ結果となるように会計基準を決めてしまえばいいではないか、という発想を抱く人も出てくるかと思われます。でも、それは勘違いなのです。もともと会計処理に選択肢など存在しないのです。

あの人種(自分もその一人?)は、よく「経済的実態」という言葉を使います。結局、この取引は何なの?という類型化をしてるんですね。実は、この類型化が大切で、その結果によって会計処理が一意に決まるのです。なのでそもそも、会計処理に選択肢があるという感覚はあまりありません。選択肢というと、先入先出し法か平均法か、といった選択を思い浮かべるかもしれませんが、そういう話とは次元が違います。

というわけで、たとえば、「このSPCは連結の範囲に含まれるか?」という命題は、会計処理の選択の話ではなく、経済的実態の解釈の話なのです。そして、経済的実態とは、当然ながら取引の当事者の意図が反映されたものですから、会社側が、その経済的実態を見誤ることなどありえない話です(もしそんな経営者だったら、その会社はあっという間に倒産ですね)。そういう意味で、世の中の粉飾決算というものは、まず間違いなく、すべて意図的なのです。重大犯罪なのです。

では、不正な会計処理を防ぐにはどうしたらいいでしょうか、という話になるのですが、それはやっぱり、そういうことをしたら結局は損をするという認識を地道に広めるしかないのでしょうね。内部統制はめんどくさいですけどね。。。

来年はおそらく、会計の仕事に就いている人たちに対して、いろんな方向からいろんな圧力がかかる年になりそうな気がします。その圧力に流されないように仕事したいものです。

それでは、お読みいただいている方々、ありがとうございました。書きたいことはたくさんあるのですが、文章を書くというのは、そこそこの時間と労力がかかるものです。ほぼ毎日のように更新されているブログもありますが、すごいパワーだな、といつも感心しています。いつまで続くかわかりませんが、来年もよろしくお願いします。皆様よいお年をお迎えください。

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2008年12月20日土曜日

内定取り消し!?

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この1ヶ月、ずっと予算を作っていて、いろいろと予算について考えました。管理会計の分野でも思うところがあるので、例によって思いつきベースでポツポツと書くつもりです。。。と予告すると、いつも頓挫しますね。長い目で見てください。あんまり頑張りすぎると長続きしませんから。。。

世間はこの騒ぎですから、来期の予算は惨憺たる数字が営業サイドから上がってきます。人間の心理として当然ですが、収益は低めに、費用は高めに数字を出すものです。売上が目標に達しなければ「なんでやねん」と言われますし、予算を超える経費を使いたいと言い出せば、またこれも「なんでやねん」と言われます。だから単純に数字を積み上げただけの予算が、最初から目標利益を上回ることは稀です。

そういう意味では毎年同じで、営業サイドにはもっと積み増せと迫る一方、こちら側(コスト発生部門)ではどこか削れと迫られるわけです。それでまあ、どのへんをどのくらい削りましょうか、という話になるのですが、どうしても金額が大きいところが削減対象になります。

で、何がいちばん大きい経費か、と言えば、それはある意味どこの会社でも似たり寄ったりでしょうが。。。そう、人件費なのですね。とはいえ、最初から人件費に「手をかける」のは、やはり人間として気が引けるようで、最初は旅費交通費とか、交際費とか、業務委託費とか、そのあたりを減らすわけですが、それでも足りなきゃ設備投資、そして最後に人件費、となるわけです。

そんなわけで、どのくらい減らせるのか、というわけで、総務に相談しに行きました。
「予算上でさ、来年の増員計画を全部やめたら、どのくらい減るの?」
「これが営業から上がってきてる増員計画の一覧ですけど。。。このくらいですかね。」
「ふーん。とりあえず現状維持じゃー!と号令をかければこれだけ減るのね。。。」
「いや、この部分は来年の新人ですから。」
「そうかあ。もう内定出してるもんなあ。」

そこでハッとしました。
なるほど。そうか。世間ではこうやって新人の内定取り消しが頻発してるんだな。。。からくりがわかったような気がして妙に納得してしまいました。とはいえ、さすがにそこに手を付ける、というのは、人として、最後の手段という気がします。その、最後の手段と思われるところに手を付ける企業が、本当に断腸の思いで手を付けたのか、それともすでに最後の手段ではなくなってしまっているか、それはわかりませんが。。。

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2008年12月14日日曜日

監査手続今昔

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私が勤務している会社にも、11月の半ばからぽつぽつと会計監査のスケジュールが入ってきました。まあ、基本的には要求された資料を渡して勝手に見てもらって、質問されたら答えて、それでおしまいですから対応としては何も難しい話はありません。私の素性は先方にばれていますので、お互い、説明半分でも話が通じるのでラクなのですが、そこはちょっとした思い込みや齟齬がないかどうか気を付ける必要はあります。

ところで、今回は、監査手続上、債権債務の残高確認を決算日以外の日で行うことになりました。決算日を基準日にして確認状を送って、差異調整の結果として修正仕訳を入れなければならなくなったとしても、決算報告の締め切りに間に合わないからです。ま、このとこ自体はよくある話で、いまどき債権債務の確認状の基準日を決算日にしているほうが珍しかったりするので、どうということはないのですが、これに関連して、監査人が、仕入売上取引の実在性を確かめる手続きを行う必要があると言い出したのです。

監査上、B/S項目の監査は、その日の残高がいくらなのかを直接把握することができるためわかりやすいのですが、P/L項目の監査は、要するに1年分の取引の集積となるため、一発でその金額を把握する方法がありません。なのでこの場合、その勘定科目に関連する取引の把握方法や、金額集計に関連する内部統制がどの程度の信頼性があるかを確かめ、その信頼性の程度に応じて、期中からコツコツと取引をサンプリングしつつ見ていくしかありません。

その中でも売上や仕入取引は、通常、会社の根幹となる取引ですから、システムでガッチリ押さえ込まれていることが普通で、内部統制の信頼性もそこそこ高いものです。ですから、通常は、システムの信頼性を確かめつつ、内部統制テストをやっておけば期中監査は終わりで、期末にはカットオフ・テスト(注1)や確認状のロールフォワード(注2)をやっておしまい、という流れになります。

ところが、監査人は、ウチの監査マニュアルでは、債権債務の確認状を決算日以外の日を基準日とした場合には、売上仕入取引の実在性テストをしなければならないことになっている、というのです。つまり、仕入や売上の取引をサンプリングして、その取引の実在性を確かめるということです。

ちょっと待って。それってものすごい件数をこなさなきゃいかんのではないの?と私が言うと、まあそういうことなんです、これを1~2日程度でいっぺんにやってしまいたいんです、資料集められますか?という感じで申し訳なさそうに頼んできたわけです。厳しいねえ。ウチの内部統制レベルってそんなに低いかなあ。昔はそんな依頼をしたらクライアントに怒られる、とか言ってたもんだけどねえ。時代は変わったなあ。

その昔、私は学校法人の監査をいくつか担当していたのですが、通常の事業会社の監査日程と違い、毎月数日(2~3人で2日前後)ずつ行くような感じで日程を組んでいました。もちろんそれは、制度上の制約があるというわけではなく、むしろ監査チームの昔からの慣習といった感が強く、学校側も、監査人は毎月定期的に来るものだという認識ができあがっていたことから、これを変えずに続けていたのだろうと思います。

比較的余裕のある時期ならいいのですが、中間監査などの忙しい時期に、1日だけ学校法人の日程が入っていたりするとウザイと思ったものですが(学校法人の方すみません!)、今にして思えば、月次決算が締まった頃にあわせて、毎月クライアントに出かけていって中身を見る、というこの方法、取引記録の実在性を確かめるためにサンプル数を増やすにはいちばんいい方法だったのではないかな、と思うのです。実際、期中は取引記録を見る監査手続が中心で、期末前になるとその調書が結構な分厚さで溜まります(それだけで仕事した気分になってはいかんのですけど)。

自分もそうですが、なんとなく、今の監査手続が先進的で、昔の監査手法はフィーリングだけでやってた、といったような印象を持っている監査スタッフが多いのではないかと思います。でも、昔の手法も、振り返ってみれば意味のあることをやっていたわけで、無碍に切り捨てるのはもったいないような気がします。


(注1)決算日を境にして、計上漏れや前倒し計上がないかどうかをチェックする手続。
(注2)残高確認の基準日を決算日より前の日で実施した場合、その基準日から決算日までの残高の動きを追いかけ、期末日の残高の信頼性を確認する手続。

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2008年12月2日火曜日

一時会計監査人の功罪

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株式会社ランドの件は、結局なにごとも起こらず、短信と全く同じ半期報告書が公表されて終わりました。実際のところどうだったのか、というのは、会社による棚卸資産の時価算定方法が全く開示されていないので判断しようがないのですが、感心したのはそれよりも、あの短期間で監査報告書を出してしまうウィング・パートナーズ監査法人の勇気です。私はあの監査報告書には絶対にサインしたくありません。もちろん、それは期間的な問題だけを言っているだけですので誤解しませんように。

さて、今回の件は、ふたつの問題点を含んでいます。ひとつは、上記に前述のような監査スケジュールの問題。もうひとつは、会計上の見積りの問題。いずれも当然にありうる話ですので悩ましい問題です。

以前は、期中に監査人が交替する、なんて、ありえない話でした。たとえば、この業界の人間なら記憶に新しい(わけでもない?)赤井電気の件。監査人の監査が未了ということで、財務諸表に関する株主総会の議案を報告から承認としたものですが、今ならどこか別の監査法人ないし公認会計士を一時監査人として任命し、無理やりにでも監査報告書を出してもらっていたことでしょう。

この、一時監査人の制度は、中央青山監査法人が業務停止となった際に一躍有名となったものですが、今ではこれが、会社に、そして監査法人にいいように使われてしまっているのではないか、という感触です。監査法人としては、厳格監査(この言葉は大嫌いなのですが)をタテにとって、これを修正しなければ降りるぞ、と、半ば脅しをかける一方、会社側も、一時監査人の制度があるため、とりあえず監査人をやってくれる監査法人や個人事務所があれば、本当に監査人を代えてしまう、という体たらくなのです。

監査には批判的機能と指導的機能があると論じられますが、日本の監査の特徴は指導的機能を発揮して、クライアントを説得し軌道修正することだったのではないでしょうか。それがいまや、言うことを聞かないクライアントは情け容赦なく切る、そして会社側は、自分たちの主張を聞いてくれそうな監査人を選ぶという、いわばオピニオンショッピングのようなことをやっている、そんなのが監査といえるのでしょうか。

監査人はもう一度、指導的機能とは何ぞや、ということを真剣に考えてほしい、と思う今日この頃です。

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2008年11月24日月曜日

株式会社ランド、会計監査人の異動を公表

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株式会社ランドは11月19日、会計監査人の異動を公表しました。その理由については、以下のように書かれております。

「当社は、当社の会計監査人である新日本有限責任監査法人と、当社の連結子会社を含めた事業計画、資金計画について度重なる協議を続けてまいりましたが、物件売却見込等の計画の実行可能性に関し、一部見解の相違が解消できませんでした。」

理由としてはこれしか書かれておりません。これで何がわかるというのですか?期中に監査人を交代したのですよ?もうちょっと説明する責任があるのではありませんか?とも思うのですが、これがこの会社のIRの姿勢なのですから仕方がありません。利害関係者は、ここから“行間を読む”必要があるわけです。

で、何が起こっているのかというと、会社が棚卸資産の時価について検討したところ評価損の計上は不要との結果となったが、監査人がこれに疑義を呈し、会社に対し評価損の計上を迫ったが、会社がこれを拒否した、といったところでしょうか。不動産価格が暴落しているとの噂が飛び交う昨今の状況からすればさもありなん、という気がします。似たような話は、不動産業であれば、多かれ少なかれ出てきているのではないでしょうか。

とはいうものの、半期報告書を提出する直前のこの時期に会計監査人を交代するのは異常事態というほかありません。それに、一時会計監査人(監査法人ウィングパートナーズ)が、棚卸資産の評価損を計上しないとする会社の判断に異議を唱えない、という保障はどこにもありません。一時会計監査人の立場から考えても、前任の会計監査人が異議を唱え、会社がこれに同意しなかったことで監査契約の解除に至った案件に対し、会社の判断を追認するのは非常に勇気の要ることです。

ところで、問題の争点となっている棚卸資産がどれで、その簿価はいくらで、会社が検討した販売可能性というものがどの程度で、結局どのくらいの評価損を出せと言われたのか、といった核心については説明が皆無なので、公開されている情報から推定するしかありません。

連結B/S上、棚卸資産に計上されている額は、2008年2月期で62,480百万円となっていますが、連結財務諸表には棚卸資産の明細が載っていませんので、個別財務諸表を見るしかありません。すると、販売用不動産が10,777百万円、仕掛販売用不動産が39,040百万円、共同事業出資金が1,600百万円、その他が4百万円となっており、残りの11,058百万円が連結子会社が保有する棚卸資産、ということになります。また、付属明細表を見ますと、販売用不動産などの勘定科目ごとに、神奈川県の物件が217戸+3区画で5,934百万円、といったように、地域ごとに簿価が分割されております。

棚卸資産に関する情報を有価証券報告書から得ようとすれば、たったこれだけ、というのが現状です。会計方針として個別法による原価法とは記載されていますが、ああそうですか、と思う程度です。大きな額の特別損失が計上されていないことから、計上額=取得価額なのだろうと推定するくらいです。私が知りたいのは時価情報なのですが、これについては一切の情報がありません。

だからといって想像でモノを言ってはいけないのですが、それを承知で言いますと、おそらく、前任の会計監査人から迫られた評価損を計上すると、最終利益が全部吹っ飛ぶどころでは済まないのだろうな、と思います。何せ、価格変動リスクに晒されている棚卸資産は総額62,480百万円で、一方、2008年2月期の連結最終利益は2,943百万円、同年同期の純資産額は13,964百万円なのです。この会社は2月決算ですから、棚卸資産の評価に関する会計基準の適用は2010年2月期からとなりますので、今期(2009年2月期)の評価損の計上は強制評価減以外にはありません。評価損を計上するとなれば簿価の半額程度の額が一気に損失計上されることになるわけで、評価損を計上する物件の範囲如何では、一気に上場廃止の規定に引っかかる可能性もあります。

個人的には、「期中での監査人の交代」は、そのくらい大きなインパクトがあります、と自ら白状するようなものではないかと思うのですが、会社がそれでも折れなかった、ということは、相当深刻な状況であることが推察されます。新任の会計監査人はどう対応するのか、とても興味深いところです。半期報告書は今月中に公表されるはずですから、注目です。

ひょっとすると、出ないかもしれませんが。。。

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2008年11月15日土曜日

会計監査12ヶ月

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監査スタッフの心情を書きますと宣言してしばらく経ちますが、忘れたわけではありませんw そこで、私の想像なんかを書くより、まずはそういう書き物をご紹介しましょう。

経営財務(注:雑誌の名前です)に、「会計監査12ヶ月」が隔週で連載されています。これがなかなか面白い。とある架空の大手監査法人が舞台でありまして、ここで繰り広げられる人間模様と会計士の心情が綴られております。読んでいて思うのは、とてもリアルであること。某国営放送局のドラマなんぞ比べものにならないリアルさ。

たとえば審査の話。簡単に言ってしまえば、監査報告書に無限定適正意見を付すための承認手続の一つ、です。通常、審査員は、代表社員または社員の中からジョブ・エンゲージメントに対して一人割り当てられます。非公開会社の任意監査などでは書類審査のみ、法定監査なら対面で口頭説明しながら審査を受けます。また、協議すべき特定案件のあるエンゲージメントの場合、上級審査といって、監査法人内に常設された審査会に付議し、合議により審査するケースもあります(このあたりは監査法人によって若干異なるかもしれません)。

まあ要するに、監査チーム外の偉い人に監査の概要を説明して、よっしゃよっしゃと言ってもらう必要があるわけです。そこには審査員の性格、監査チームの責任者と審査員との力関係、過去の歪んだ判断、監査法人の立場、審査制度の弊害など、純粋な会計理論以外の要素がたくさん存在するわけでありまして、案件によっては、それら会計理論以外の要素のおかげで一悶着、ということもあります。

このあたりが、監査チームの面々の心情を織り交ぜながら、かなりリアルに描かれておりまして、私などは読みながらニヤニヤしてしまって、部下に訝しげられております。そこで部下に読ませてみたのですが、経理実務に係わってきた経験が深い人ほど受けがよい、という結果となっております。

おそらく、経営財務という雑誌は、会社の経理部門が購読していると思われますので、ご興味のある方は経理まで足をお運びになり、「ウチで経営財務っての、とってる?」とお聞きになってみてください。

ちなみに、私は税務研究会とは無関係ですw

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2008年11月8日土曜日

会計的感覚の欠如

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最近、八王子自動車教習所が経営破綻し、受講生が路頭に迷うというニュースが流れましたね。経営陣が受講生に対して説明会のようなものを開催している様子が映され、怒号・罵声が飛び交う中、経営陣がひたすら謝っている姿が印象的でした。

それから、託児施設の運営会社も経営破綻したというニュースも。子供を抱えた母親の困惑した表情が流されました。そして経営者の独占インタビュー。カメラの前でひたすら謝る経営者。なんだかどこかで見た光景です。

思えば、経営者が頭を下げて謝る姿というのは、かの山一證券の経営破綻が始まりのような気がするのですが、それから何かあるたびに、経営者が記者会見を開き、言い訳したり誤ったり、なんだかそんなことの繰り返しのような気がして、そうした光景に慣れきっていました。ところが、この自動車教習所の件、託児施設閉鎖の件に関しては、なぜだかそうした光景に違和感を感じました。さて、この違和感はなんだろう?

経営破綻というのは、要するに経営の失敗であります。経営というのは信用により成り立っているのですから、経営に失敗し、信用を失った企業および経営者は、市場から撤退するのがルールです。この、「市場からの撤退」は、経営に失敗した企業および経営者に課されるペナルティである、という言い方もできるでしょう。

どんな経営者でも、自分の会社を大きくしたい、できるだけ長く営業を継続させたい、と思うはずで、わざと倒産させる人はいないはずです。もちろん、詐欺的に計画倒産を画策する人間はいるでしょうが、それはそれ自体犯罪ですからここでは論外とします。

ですから、経営陣は、自らの失敗を認め謝罪し、株主・債権者・従業員・取引先など利害関係者に対して誠実に対応することで、経営に失敗した経営陣の贖罪は全うされるものと思います。ましてや、債権者集会で罵詈雑言を浴びせられる謂れはないし、テレビカメラに向かって謝罪する必要もないと思うのです。

このようなことは、ちょっと考えれば分かりそうなものです。実際、あれはひどすぎるという声があちこちで上がっているようです。なのになぜ、ああなってしまうのでしょうか。払い込んだ受講料がパーになった腹立ちは理解できますが、怒鳴り散らしたところで状況は変化しません。それを証拠に、あの映像では受講生だけが喚き散らしていましたね。おそらく取引先の人たちもそこそこ出席していたのではないかと思いますが、そういう人たちは粛々と見守っていたことでしょう。言うべきことは言う必要はありますが、怒鳴ったり詰ったりしたところで何も変わらないことが分かっているからです(もっとも、そこには報道側の操作がある可能性は否定しませんが)。

これは、会計的感覚の欠如が原因です。もちろん取引先の担当者は自分のカネを損したわけではありませんから冷静でいられるというのはあるでしょう。しかし、社長であれば受講生と同じ立場です。ですが、会計的感覚のある人間なら、この場で罵声を浴びせたりしません。

自動車教習所のような業種では、講習料を前金一括払いにしているケースがほとんどであると思います。英会話教室NOVAの破綻の原因が、常軌を逸した長期の前金制度であったことは記憶に新しいところです。前金を払うことについては受講生もそれなりの決断をしていると思うのですが、そこにどのようなリスクがあるのかを考えた人がどれほどいるのでしょうか。常軌を逸しているのではないかと思われる長期の前払いでさえ、割引という甘い汁に誘われて支払ってしまうのですから、卒業までの期間がある程度予測される自動車教習のような場合、ほとんどためらいもなく支払ってしまっているのではないでしょうか。

ワイドショーのコメンテーターなどが軽々しく「前金で取ったお金は何に使っちゃったんでしょうねー」などと言っていますが、これも会計的感覚が欠如していると言わざるを得ません。前金で徴収した資金は、通常の支払資金に当てるに決まっているじゃありませんか。前金で徴収すること自体が悪であるかのような誤解を与えかねません。

前金を支払うことは、すなわち債権を有することになるのですが、債権には常に貸倒れリスクが伴うものであるということを認識すべきです。もちろん、一般消費者である個人にそのリスクをすべて負わせるのは、取引における力関係から言って公平性を欠くという考え方があって、そのために消費者が保護される(そのリスクが事業者側に転嫁される)制度がありますが、リスクの存在を正しく認識することと、そういった消費者保護行政とは、本来別物であることを肝に銘じておく必要があります。

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2008年11月3日月曜日

危ない社債の評価額

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有価証券の話題をもう一つ。昔話です。

もうだいぶ前の話になりましたが、日経新聞で社債の市場価格をなんとなく眺めていたところ、70円台の数字が目に飛び込んできました。

銘柄を見れば「マイカル」。あ?何だこれ?「償還されれば」確実に儲かるじゃんw買うか?と、冗談半分に同僚と話したことがありました。世間では危ないと噂されていましたが、これは本当にヤバイ状況なのだな、と感じたものでした。その数ヶ月後、マイカルは本当に民事再生法の適用を申請することとなり、ああ本当に潰れた、あの価格は嘘ではなかったのだな、と、改めて思ったものです。

当時は金融商品会計基準の適用が開始されたばかりで、有価証券の減損に関する原稿を書く機会がありました。実務指針の本文を読むと、「個々の銘柄の有価証券の時価の下落率がおおむね30%未満の場合には、一般的には『著しく下落した』ときに該当しないものと考えられる。」とあります。

で、脳裏に浮かんだのが、マイカル社債でした。倒産直前の市場価格が70円以上あったわけですから、下落率は30%未満です。すると、この規定を杓子定規に当てはめると、減損不要になってしまいます。それはおかしい。そもそも、変なオプションやその他付属品がついていない普通の社債なら、そんなに価格変動するわけがありません。80円台に突入したら何かあるといわざるを得ません。ですが、実務指針では、減損を検討すべき価格のボーダーラインについて有価証券をひと括りにして説明しており、債券の取り扱いが分離されていません。

もっとも、減損の検討を行うボーダーラインの設定は、会社が独自ルールを設けることは可能です。しかし、保有社債発行会社のゴーイング・コンサーンに疑義が生じたとして、単価10円20円の減損を認識したところで何が面白いのか?そもそも、ゴーイング・コンサーンに疑義があるなら、社債を債権として評価すべきではないか、という考え方もあります。

しかし、債券を債権として評価してよいのは、当該債券に時価がない場合です。で、市場価格を時価とみなせない場合とは、市場そのものが成立していない場合に限られ、債券発行会社の信用状況が悪化したとき、という条件はありません。また、債権として評価したところで、上場廃止や監理ポスト入り等の措置がなされていない状況であれば、市場価格を覆すだけの根拠がある評価額を導き出せるのか、という疑問もあります。

以上から、結局は市場価格を時価として付す以外はなく、せいぜいP/Lチャージする程度になるだろう、ということで、その原稿には、会社独自の減損検討ルールを設定し、債券に関しては他の有価証券より厳しいラインとすることも考えられる、といった程度の文章にしたような記憶があります。

さて、その当時、マイカルの社債はデフォルトとなって一般ニュースにも頻繁に採り上げられるほど大騒ぎになりましたが、こうした上場社債の会計上の評価額というのは、どのような額を付すべきなのか、非常に難しいと思います。これも、金融に詳しい方にとっては、基本なのでしょうか。

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2008年11月1日土曜日

金融危機対応は、対応した「ふり」?

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前回は、図らずも私の無知ぶりを暴露した形となりましたが、そんなことは棚上げして先に進みます。といっても、またこの話題を引きずるところなど、良識ある市民のやることではないかもしれませんがもう少しお付き合いください。

経営財務2891号に、この話題が載っていたので読んでみました。やはり報道にあるような「見直し」とか「緩和」ということではないようです。ちょっと安心しました。しかし、ロイターのような報道は腹立たしい(なのでちょっといきり立ってしまったわけですが)。普通の株式しか持っていないような会社が、こういう報道を見て勘違い、というか確信犯的に悪用したりしないだろうか、という心配があるからです。まあ、大きなお世話というか、ピントはずれなのかもしれませんが。

また、ASBJは、有価証券の保有目的を、売買目的から満期保有目的へ変更可能とする検討も行っているようです。IASBがそういう改正を行ったことを受けたもので、これも初めて聞いたときは驚きましたが、米国基準ではもともと許容されていたそうです(知りませんでした)。

IASBでは、あくまでも「極めて稀な場合」にのみ認められると言っているようですが、何が「稀」に当たるかどうかの判断は実務に委ねられるとのことです。なんという無責任な。この調子なら、日本基準が改正になっても、まず運用される機会のない条項となるでしょう。だったらそんな改正しなきゃいいのに、と思うのは私だけでしょうか?

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2008年10月30日木曜日

時価会計の運用見直しを決定??

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実は私、「時価会計見直し」論がどのように報道されているのか、あまりきちんと読んでいませんでした。なので、ロイターの報道「時価会計の運用見直しを決定=企業会計基準委」の見出しを見て、ひっくり返りそうになりました。

しかしえらい違いです。前回書いたように、私はあの実務対応報告を読んで、そうやすやすと与しないぞ、という、企業会計基準委員会の意思を感じました。ところが報道は「運用見直しを決定」だと!?オレはだまされたのか!?

そこでもう一度、件の実務対応報告を読み返してみました。そしてロイターの報道文を読み、また実務対応報告を読みました。。。何度読んでも、「運用見直しを決定」したようには読めません。私は馬鹿なのだろうか?

ロイターによれば、「金融商品が流動性に欠け、いわゆる『投げ売り』による市場価格が成立した場合は、その金融商品の評価に理論価格を用いることを容認する公式見解で、企業にとっては時価会計の適用が事実上、緩和される。」と報道されているのですが、私にはどうしても「緩和され」ているようには思えません。私が前回引用した箇所「本実務対応報告は、現行の会計基準等を踏まえた実務上の取扱いを確認するものである。」のくだりは、報道では完全に無視されています。これはおためごかしだ、とでもいうのでしょうか?

市場価格を時価(fair value=公正価値)とみなしてよいのは、市場が市場として成立している状況であることが前提なのは、会計の専門家なら言わずもがなです。とはいえ、どのような状況をもって「市場が成立していない」と判断するのか?投売りってなんなの?同じ市場で価格がついている金融商品について、ある会社はその市場価格を採用し、ある会社は理論価格を採用する、ってこともありうるよね。そんなの許されるの?市場価格と理論価格が大きく乖離していたら、それはどう説明するの?いくら理論価格で評価しても、その金額では売れないんでしょ?売ったら売却損が出るんでしょ???

疑問だらけです。監査人がそう簡単に、市場価格と大幅に乖離する理論価格を許すとは思えません。

回復の可能性がある、として減損を逃れようとする会社が出てくるかもしれないな、とは思いましたけどね。。。

なお、実務対応報告は、ここです。公表から2ヶ月間は会員でなくても読めます。ぜひ読んでください。

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2008年10月28日火曜日

会計は現実を映す鏡

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新たなシリーズものが始まったとたんに脱線ですが、今日のテーマは、「会計の本質」についてです。偉そうなテーマですね。

私は会計の仕事をし始めたころから、「会計は現実を映す鏡」だと思っています。鏡は現実をありのままに映すもの、と思っておられる方も多いかと思いますが、実はそうではありません。鏡がゆがんでいると、当然そこに映る像もゆがみます。そこに映る像は、鏡の状態によって決まるわけです。

でも、その鏡に映っている現物はひとつです。いろんな形の鏡に映せば、鏡の数だけ像が浮かび上がることになりますが、実際の現物はひとつしかないのです。

会計もまた同じ。会計という鏡を使って取引を映すと、そこにはある形の像が浮かび上がります。でも、その対象物である取引はひとつしかありません。ひとつしかないのですから、会計という鏡の形をいろいろ変えて、いろんな像を浮かび上がらせようとも、対象物はひとつなのですね。

最近どうも、時価会計に待ったをかける論調があるようですが、これに同調する方々は、会計という鏡の形を変えたところで、現実はひとつだけ、ということを肝に銘じるべきである、と思うのです。

(20:34追記)

本日、企業会計基準委員会から、「金融資産の時価の算定に関する実務上の取り扱い」が公表されました。何が書いてあるのかと思えば、何も新しい内容はありませんでした。しかもわざわざ、「本実務対応報告は、現行の会計基準等を踏まえた実務上の取扱いを確認するものである。」なんて書いてあります。企業会計基準委員会の強い意志を感じますね。

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2008年10月25日土曜日

監査スタッフの心情



えー。マニアックなこばんざめであります。そう言っていただけるなら、内心してやったり、ですw

ここであんまり教科書チックな話をしても仕方がない、と思うのです。たまにはそういうのもいいですが、私がそういうことをここに書くと、おそらくボロが出ます。なので、そういう話は、巷のテキストをお読みいただいたほうが怪我が少ない、と思われます。

さて、そういう意味では、前回、財務諸表監査における内部統制の評価ステップについて、やや舌足らずではありますが教科書チックなことを書いた部分がありましたので、今回から、そこに焦点を当ててマニアックに行ってみようと思います。

理屈は簡単です(実践は難しいですが)。
1. いろんな環境調査から、監査リスクを抽出する。
2.リスクの重要性から、監査要点とするorしないを決定する。
3.そのリスクを低減する社内手続(コントロール)の有無を確かめる。
4.コントロールの仕組みを評価する。
5.コントロールの運用状況を評価する。
6.5までの結果を前提とした残存リスクを決定する。
7.6の結果に基づき、期末残高の監査手続を決定する。

この手順、どこかで聞いたことはありませんか?何かで見たことはありませんか?そう、1から6は、内部統制報告制度におけるリスク評価手続そのもです。何のことはない、実は監査人も、おんなじことをやっていたのです。

それでは次回から、この過程で、監査スタッフの心情に想起される陥穽について考えてみましょう。

2008年10月21日火曜日

架空取引をなくそう

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まずは前回(正確に言うと前々回?)の補足から。伊藤忠の公表資料に再発防止策が記載されています。そこには、この取引が主に陸送であったため、船荷証券等の発行を伴わない取引であった、とはっきり書いてありました。実際、このようなナンチャッテ三国間取引(意味不明w)は、特殊な取引というわけではなく、よくある話です。ますます間に商社が噛む理由がわからんのですが、まあ、メーカーと最終需要家を結ぶ流通ルートは、取り扱い品目によって固定化されているのが現実ですので、「○○向けに△△を売るならウチを通せ」「××から□□を買うならウチを通せ」と言われることはしばしばです。

三国間取引に限らず、直送取引全般に言えることですが、本当にモノが動いてるのかどうかわからない。メーカーから納品書が来て、需要家から受領書が来て、両者を照合して初めてモノが動いたことが確認できます。で、実際には、そこまでやっていると胸を張れる会社は少ないでしょう。なぜやっていないかというと、そういった照合をやったあとで仕入・売上を計上していたのでは間に合わないからです。そうすると、たとえば出荷報告をとりあえず電話やFAXで受け取り、仕入・売上を計上して、正式な証憑は後付け、といった感じになるでしょう。

そうすると何が起こるか?人間誰しも、必要なものは見ますが、必要性を感じないものは見ませんよね。たとえば仕入・売上の入力担当者は、出荷報告がいつ来るのかと気を揉むことでしょうが、当面入力に必要がない売りサイドの証憑は気にしないと思います。入力が終わって、後付けで送られてくる証憑なんて、だれが気にしますか?業務上のルールとして、両者を照合すること、となっていたとしても、その照合を怠ったからといって仕事がストップするわけではありません。ですから、その照合作業に気合が入ろうはずがありません。

さて、こうした状況を踏まえて、監査人はどう判断するのでしょう。まず、監査要点として「直送取引の実在性」という事項が掲げられます。監査要点というのは、監査上の心証を得るべき目標といった意味で、財務諸表監査において内部統制の信頼性を確かめる場面にあっては、業務フロー上で抽出されたリスク・ポイントの中から選定されます。ですから、リスク・ポイントを監査要点として掲げるかどうかは、その監査要点の固有な重要性、他の監査要点との重要性とのバランス等を考慮して決定されることになります。ただ、たとえば商社の監査で、直送取引の実在性が監査要点として掲げられないケースは、まず考えられません。

次に、会社はこの監査要点に対して、どのようなコントロールを行っているか、そしてそのコントロールは仕組みとして有効かどうか、について検討することになります。その結果がOKなら、その仕組みどおりの運用が実際に行われているかどうかを検討します。そこまで行って、エラーが発見されなければ、内部統制の信頼性が高い、と判定されます。なので、今回のケースでは、形式上の証憑類がきちんと揃っており、そこから物流が伴っていないことを確認することは困難だった、ということが事実である限り、この内部統制の信頼性は高い、という判定になったことだろうと思います。従業員のコントロール手続きに身が入っていなくても、証憑が揃っていれば問題となりません。

ところで、ここで最も重要な事実は、この取引が架空仕入と架空売上であったわけで、はっきり言ってしまえばでっち上げの証憑が、本物の証憑の中にたくさん混ざっていたということです。そして、それをだれもが8年もの間、でっち上げであることを気付かずに今日に至ってしまったわけです。このあたりが、内部統制の限界であり、内部統制に依拠する監査の限界であろうと思います。社外の者との共謀による証憑の偽造・改竄・捏造は、最もその正体を見破りにくいものなのです。ただ、捏造であるがゆえに、「証憑がきちんと揃いすぎている」というケースが考えられます。しかしそれをもって「怪しい」と思い、追加的な監査手続を実施するかと問われれば、それはないでしょうね。。。

そこで、伊藤忠の公表資料では、再発防止策として、通関書類に加えて物流業者の荷受書等の入手・確認により、実質的な物流の存在を検証することを更に徹底する旨が書かれています。しかし、実はこれでも完璧ではありません。架空循環取引によくある手口なのですが、ひどいのになるとモノまで実際に動かします。商社や問屋の間で在庫を転がすのです。物流業者の証憑なんて、貴重品ならともかく、受領物の内容が正確に書いてあるわけではありませんから、運ばせる物は何でもよく、数量なんて適当でよかったりするわけです。それこそピーナツが6個でも何でもよくて。。。あ。。。歳がばれますね。。。

というわけで、私は勝手に、この手の不正や粉飾を、ステルス型なんて呼んでます。加ト吉の循環取引も、やはり取引先への金融支援に端を発するものです。こいつを撃退するのが私のテーマなんですが、なかなか難しい。直送取引が常態の商社にあって、自律的に架空取引があぶりだされるようなコントロールなんて、ありはしないのです。ここが怪しい、ということで特別調査と言えるほどの広範囲な調査をやれば見つけられるでしょうが、普段の内部監査や会計監査人の監査では、そもそもサンプルとして抽出された取引がヒットする確率なんぞを考えると絶望的ですらあります。

もちろん、悪いことをすれば、いずれはばれます。今回題材にした伊藤忠のケースでは、「回収遅延が発生」とあることから、架空取引をもってしても不良債権の発生を防げなくなってしまったわけですし、加ト吉のケースでは、会計監査人に通報があったということです。ただ、いずれ見つかるとは言っても、やはり長い。長期間見つからずに不正をし続けることができる。そして、短期間のうちにタイムリーに見つけることが困難である。そういうことが原因なのかどうかはわかりませんが、ネットで「循環取引」などと検索してみると、えらいたくさんヒットします。何とかならないものか。もうちょっと考えます。

蛇足かもしれませんが、ひとこと。一応、当初の疑問「会計士は何やってんの?監査やってたんでしょ?」という疑問に答えたつもりです。べつに遊んでるわけではないのです。不正や粉飾をやるほうも隠すのに必死です。多少はお分かりいただけたでしょうか・・・

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2008年10月18日土曜日

ビジネス法務の部屋

自分の仕事柄、内部統制とか、粉飾決算とか、不正リスクとか、そういう視点でモノを見る習慣は身に染み付いているのだろう、と思います。そして今は、監査の仕事から離れ、一般事業会社で経理及び経営管理の実務に携わるようになったことから、対クライアントというしがらみから離れて、より主観的に、自らのことこととして考えるようになったような気がします。

もう一度基本から、そして自社の業務上の問題点から、決算・組織・内部統制・不正リスクなどを見つめ直さなくてはならない、そうしないと、ウチは大丈夫です、と胸を張ることはできない、そんなふうに考えながら、いろんな情報収集をしていた折、見つけたブログが、ここ(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/)でした。

思わずコメントをつけていました。私の悪い癖ですが、時として必要以上に喧嘩腰になることがあります。管理者の方は、さぞや不快に思ったのではないでしょうか。しかし、感情的な部分は捨象し、真摯にレスをいただきました。これはうれしかった。

そして今でも、ちょくちょく覗かせてもらっております。そしたらビックリ。私のこのブログが紹介されているじゃありませんか(しかも「必読」だなんて)。思いつきで書きなぐったような文章でお恥ずかしい限りですが、暇つぶしに読んでいただければうれしく思います。

ちなみに、ここは、トラックバックの機能がない、ということを、ブログを開始してから知ってがっかりしました。開始早々、引越しを考えていますww。

2008年10月14日火曜日

伊藤忠で1,000億円規模の架空取引(その2)

営業担当者として、売掛金の回収が滞ったとき何を思うか。ヤバイっ、と思うのでしょうね。回収できなきゃ損失になるわけですから、そりゃ当たり前。で、そこでその現実をどう処理するか。その処理方法の選択。そこにそれぞれの経験や人間性が出てくるのはないでしょうか。

実は、選択肢は二つしかありません。正直に上司に言って善後策を練るか、隠すかのどちらかです。で、この人は隠すほうを選んでしまったんですね。隠すとろくなことはない、というのは普通の発想で、人間追い込まれるととんでもないことをやってしまうものです。それでも、職場の環境や雰囲気に、隠すとろくなことはない、と思わせるものがあれば、また違った選択となっていたかもしれません。少なくとも、この担当者は、事実がばれたときの恐怖感が、隠すとろくなことはない、という発想を上回ってしまった、そういうことなのだろうと思います。

いっぺん隠しはじめると、だいたいは足抜けできなくなってしまうものです。そして麻痺してゆくのです。見つからなければ永遠にやり続けたことでしょう。それは人間心理として仕方がないと思います。やはり、最初の入り口。損失額が大したことがない段階で、隠すとろくなことがない、と思わせる雰囲気や仕組みが会社にあるか。内部統制の本質はそういうところにあるのですが、最近の議論は、なんとなく枝葉末節にこだわりすぎているような気がします。

それでは、これがなぜ防げなかったのか、8年間も発覚しなかったのか。それを検討してみたいと思います。

伊藤忠の公表資料によれば、この三国間取引は、1999年度からスタートし、2000年度になると、得意先(A社グループ)からの支払いが困難になった、とあります。2000年度の当該取引による売上高は530百万円で、翌2001年度は1,951百万円、2002年度は2,922百万円、2003年度は5,541百万円と、すごいスピードで増加しています。

これだけのことで、もういくつかの疑問が湧きます。まず、1999年に始まった取引が、2000年にはもう回収が困難になっているという点です。普通、こんなことはありません。取引を始めて1年以内ですよ1年以内。この会社の与信管理はどうなっているんでしょう。とりわけ、新規得意先の与信調査は、継続案件よりも厳密に行うはずです。当初の計画はどうだったのかわかりませんが、最終的には年間10,000百万円規模の取引になっているんです。与信枠を増やすたびに検討を加えているはずです。

そうすると、A社グループの財務諸表及び与信情報が、当初から改竄されていたとしか考えられません。つまり、このA社グループの信用状況が、取引開始の当初から思わしくない状況だったということです。情報の改竄をやられてしまうと、おそらく与信管理の仕組みでは引っかからないでしょう。その改竄はだれがやったか?担当課長はそのことを知らなかったのか?

それから、このような新規取引に当たっては、通常、取引のスキームや数字の見込みを計画案として作成し、承認を得るような形を取るはずです。取引額の急激な伸びは、計画時点ではどうだったのでしょうか?公表資料では、担当課長から虚偽の説明を受け、取引が順調に推移しているものと誤認したとあります。信頼している部下であれば、これは仕方がないかもしれませんね。。。

次は、その、回収が滞った売掛金の入金をどのように糊塗するか?ですが、この点、伊藤忠の公表資料では、「当社が本仕入先へ本商品の売買代金として支払った金銭は、A社グループへ迂回され、本商品の売買代金の支払いを含むA社グループの資金繰りに充当されていたと思われます。」とあります。
簡単に言えば、売掛金の支払原資を貸し付けた、ということです。会社にばれないように貸し付けるには、売掛金の入金としてキャッシュの移動が生じる必要があるので、一旦こちらから送金して、それを支払わせる必要があります。実際にはL/Cを使っていたようですが、意味は同じです。

そこでまた疑問が沸き起こります。仕入先から資金を迂回させていたということは、仕入先に事情を話して協力してもらわなくてはなりません。そして、そういう協力を仰ぐ仕入先は極力少なくしたい。できれば一つだけにしたいところでしょう。それに、貿易なのですから、正式なContractまたはPurchase Orderに基づいてShippig ListとInvoiceを作成してもらって、さらにB/Lを作成してもらう必要があります。そうしないと、A社グループは伊藤忠に対するL/Cを開設できないでしょう。

ちょっと思いつくだけでも、これだけのことを仕入先にやってもらわなくてはならないのです。もしそうだとしたら、おそらく仕入先に対しても手数料を支払っていたものと思われます。まあ、仕入先の口銭が手数料ということになるのでしょうから、実際には出荷していない仕入先は文句を言わないでしょうけど。

この点、公表資料では、書類は全部揃っていたからわからなかった、とあります。ただし、そこに列挙されている証憑類は、すべて買い手が作成するもので、仕入先が作成するものが見当たりません(ここで言う「請求書」は、仕入先からの請求書か、A社グループへの請求書の控なのか不明です)。三国間取引では、仕入先が作成したB/Lをの写しを商社にも回すのが普通で(原本は貨物受取人へ回付)、これを貨物受け取り後に買い手から入手する証憑と突き合わせるのが常識ですが、公表資料では、支払側の証憑をどのようにチェックしていたのかが、今ひとつ判然としません。もっとも、陸送が同一国内(仕入先もモンゴル国内)の場合、B/Lの作成は必要がないかもしれませんが。

もう一つハードルがあります。仕入先に支払った金銭を、どういう名目でA社グループに送金してもらうか、です。このことについては、公表資料では一切説明がなく、「迂回され」としか書かれていません。仕入先とA社グループとの間には、現物を納品するという以外の取引関係はありませんので、そう簡単には送金するわけにはいかないと思うのですが。。。そうか仕入先では書類だけ作って、売上を計上しなければ、伊藤忠からの送金は丸々裏金になりますね。。。通常の決済口座とはべつに隠し口座を作ってもらってそこへ送金すれば。。。

こうしてみると、この不正を実行するのは、かなり高いハードルをクリアしなければならないことがわかると思います。私なんかは、もうそれだけで、正直に訳を話して損切りするか融資に切り替えるか、上司に決断させますけど。そうしないと、自分の首が飛びかねませんよね。この課長に何があったのでしょうね。

次回は、監査的な視点で見てみようかと思います。

2008年10月11日土曜日

伊藤忠で1,000億円規模の架空取引

ロイターなどによれば、伊藤忠商事は10日、モンゴルの資源会社へ建設機械や資材を販売した貿易取引で、1,000億円近い架空取引が行われていたと発表した、ということです。担当課長が懲戒解雇されたとあるので、横領か?と思いましたが、どうやら違ったようです。詳細は伊藤忠商事株式会社の公式発表(http://www.itochu.co.jp/main/news/2008/pdf/news_081010.pdf)を読んでいただくとして、ここではその内容を検討してみたいと思います。

取引は、モンゴルやロシアなど複数の仕入先から重機械や資材等を購入し、モンゴルの得意先へ販売するもので、商品は直接陸送されていたということです。このような取引は、いわゆる三国間取引と呼ばれるものなのですが、こういうふうにサラッと書くと、その資源会社が直接買えばいいのに、なぜ伊藤忠が間に入っているの?という疑問が湧くのではないかと思います。ひとことで言えば、商社とはそういうもんだ、ということになるのですが。。。何の説明にもなっていませんね。。。

こういった、中間に商社が入って口銭を抜く商売は昔からあります。もともとは、複数の売り手と買い手をつなぐ、いわば商品取引所に似た機能を果たす目的で発生してきたものだと思いますが、今となっては「昔からこうだから」というだけで、意味もなく続いている取引がたくさんあるのではないかと思います。
もう一つは、与信の問題があります。買い手の与信に不安がある場合、その間に立って商社がリスクをとるわけです。そのリスクプレミアムが口銭というわけです。
さらにもう一つ、金融機能もあります。売り手と買い手の代金決済サイトが折り合わないとき、商社が間に立ってこれを調整するわけです。この場合、口銭は利息と同様に考えることができるわけです。
こうしてみると、商社が売上と仕入を両建てで計上している理屈はどこを見ても成り立たない気がしますが、その話はまた別の機会に。

だいぶ脱線しました。で、クビになった担当課長は何をやったのか、というと、カラ仕入とカラ売りです。商品の受け渡しはなかったにもかかわらず、仕入先から仕入したものとして支払いを起こし、その資金を得意先に迂回させた、ということのようです。最初は真っ当に商売をしていたのですが、得意先が資金難に陥って支払いが滞るようになってきてしまった。そこで、得意先を一時的に支援して、取引を継続してもらおう、そういう意図のようで、報道によれば元課長は、「取引を広めようと便宜を図った」と言っているようなのです。この売上に見せかけた貸付は、実に8年間にわたって行われ、貸付総額は1,000億円近くに上るとのことです。

得意先の状況が思わしくなくなってきて、代金回収が滞りはじめたとき、これを焦げ付きとして処理したくないために融資するというのは、よくある話です。典型的な不正への陥穽という気がします。でも、なにやらどうも、腑に落ちない感じがします。さて。。。

2008年10月3日金曜日

監査提言集

いま、私の手許に、「監査提言集」というものがあります。すでにいくつかの会計関連のブログで触れられていますが、これは、日本公認会計士協会の監査業務審査会が会員に配布した小冊子で、ひとことで言えば「監査見逃し事例集」です。それぞれの事例はごく簡単にしか書いてないので詳細は不明なのですが、何が起こって何が問題だったのか、というエッセンスはわかるようになっています。

事例数は43にも上っています。これが何年分なのか不明ですし、「必ずしも事実を記述しているものではない」とあるので一概には言えないのですが、数年前に始まった会計士協会による品質管理レビューで発見された事例なのでしょうから、それだけを考えても、相当数の見逃しがある、ということを予測させます。

で、私としては、個々の見逃し事例の内容よりも、むしろ別のところに目が行ってしまいました。まえがきに、「問題発覚の発端」という項があるのです(以下引用)。

本提言集に掲げた事案例について、記載されている問題事項が発覚することとなった発端としては、次のように理解することができる。
会社が作成する財務諸表に関しては、いろいろな立場の人がその信頼性について注目していることを、監査人としても忘れてはならない。
●会社あるいは監査法人等への内部通報
●行政当局の調査
●会社破綻後の調査
●監査人の問題意識から、過年度財務諸表への影響が発覚
●社内調査
●首謀者の自白
●その他

要するに、発覚の発端は、ほとんど「チクリ」であることがわかります。つまり、監査人が自力で発見した事例は少ない、ということが読み取れます。「会社破綻後の調査」なんて堂々と書いてありますね。

これじゃ、「会社の倒産=監査の失敗」と受け取られても仕方がないですね。。。

2008年9月27日土曜日

業績が悪くなると何が起こるか

会社の業績が悪くなると、経営者には、いろいろな負のインセンティブが芽生えます。このことは、ちょっと想像すればわかると思います。人間は、自分が不利な状況に置かれたとき、その状況から何とかして脱しようとするわけですが、そのとき、必ずしも正当な手段だけを用いるとは限らないわけです。それが人間というものです。

まさに、子供の嘘のようなものです。まともに財務諸表を作ったら、だれの目にもひどい状態なのが明らかになってしまう。倒産するんじゃないか、と思われたら終わりだ。だったら、この状況を隠してしまえばいい。そのうち回復するから、そのときまで持ちこたえれば大丈夫だ。おそらくそんな発想でしょう。

ちなみに、最近、世間は内部統制で喧しいわけですが、おそらく、重箱の隅をつつくようにリスクポイントを論っている会社もあるのではないかと思います。そんなのはナンセンスです。最も厳しい統制下におかなくてはならないのは、経営者であることは、上のような話をすればすぐにわかるはずなのですが。まあ、この話は、また日を改めてやることにしましょう。

閑話休題。
問題は、そういう状況で粉飾があったとき、監査人は何をしていたか、です。表向きは無風の会社が突然倒産し、蓋を開けてみたら実は債務超過だった、なんてこともあるわけです。ホントに、一体何やってたんでしょうね。本当に、見逃していたんでしょうか。そうは思いたくないのですが。

2008年9月23日火曜日

会社が倒産すると。。。(その2)

「会計士が監査してるのに、なぜ倒産するんだ?」

この疑問は、全くの誤解です。会社が倒産しないような経営を執行する責任は、経営者にあります。監査人が、会社が倒産しないように知恵を絞らなきゃいけない道理は、どこにもありません。

じゃあ監査人は、何やってんだ?という話になるわけです。監査人は、ひたすら会計処理の正しさだけを判定します。会計処理が正しければ、その会社が倒産しそうでも違法行為をしていても、適正、ということになります。

こういう説明をして、果たしてどれだけの人が納得してくれるでしょうか。「監査ってあんまり意味がないね」と言われるのが関の山、という気もしないでもありません。

なぜ、「あんまり意味ないね」となってしまうのでしょう。なぜ、実際には無関係な「会社の倒産」と「会計処理」が結び付けられてしまうのでしょう。
それは、会社が倒産する間際は、粉飾が行われていることが常であったし、今もそうだ、という印象が強いからでしょう。実際には、倒産した会社の全部が粉飾していたかと言われれば、答えはNoなのですが、何せインパクトが強いですから、そういう印象になってしまうのも仕方ありません。

ここから、倒産時に粉飾が行われていた場合だけに話を絞ってみたいと思います。それでは次回まで。

2008年9月17日水曜日

会社が倒産すると。。。(その1)

リーマン・ブラザースが破産法を申請した、というニュースが駆け巡りました。続いて同社日本法人も、民事再生手続の申し立てを行ったようです。本国の会社の行く末はともかくとして、日本法人は営業を続ける意思があるということですね。

ところで、こういう事件があると、最近は誰からともなく、「どこが監査してたの?」「会計士は何を見てたの?」という話題が出るようになりました。こういう話題が出るようになっただけマシ、という見方もありますが、どうもなんとなく、監査人が企業倒産の共犯者扱いされているようなフシが見受けられます。

以前から私は、こういう感覚に、かなり違和感を感じてきました。会社を生かすも殺すも、その点に関しては専ら経営者の責任だろう、と思うのですが、なぜ、また、いつごろから、そんな風潮になってしまったのでしょう? もっとも、監査人自ら、倒産に居合わせたくない、つまり、倒産直前の監査報告書にサインしたくない、と、100人が100人とも思っていることでしょうから、仕方ないといえば仕方ないのかもしれません。

次回は、このからくりを紐解いてみることにしましょう。

2008年9月15日月曜日

会計に厳しい世の中

会計に携わる人間にとって、現代は本当に生きにくい世の中になってしまいました。なぜこんなふうになってしまったんでしょう。この閉塞感は一体何なのでしょう。
とはいえ、こうやって嘆いたところで、昔はよかったなあと感慨に耽ったところで、この閉塞感がなくなるわけではありません。前向きに捉えていきましょう。そうしないと、生きにくいままの世の中ですから。
ただし、常に疑問を持ち続けることが大切ではないかと思うのです。やれ、と命ぜられたことを盲目的にやるのは、私の性に合いません。
のっけからなんという暗い雰囲気なのでしょう。このブログ、先が思いやられますね。

2008年9月14日日曜日

よろしくお願いします

最近遅ればせながら、会計や監査、内部統制という点で、いろいろと考えることが多くなってきました。これから、その内容を少しずつ書いてみようと思います。たまに脱線することがあると思いますが、ご容赦願います。