2008年12月14日日曜日

監査手続今昔

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私が勤務している会社にも、11月の半ばからぽつぽつと会計監査のスケジュールが入ってきました。まあ、基本的には要求された資料を渡して勝手に見てもらって、質問されたら答えて、それでおしまいですから対応としては何も難しい話はありません。私の素性は先方にばれていますので、お互い、説明半分でも話が通じるのでラクなのですが、そこはちょっとした思い込みや齟齬がないかどうか気を付ける必要はあります。

ところで、今回は、監査手続上、債権債務の残高確認を決算日以外の日で行うことになりました。決算日を基準日にして確認状を送って、差異調整の結果として修正仕訳を入れなければならなくなったとしても、決算報告の締め切りに間に合わないからです。ま、このとこ自体はよくある話で、いまどき債権債務の確認状の基準日を決算日にしているほうが珍しかったりするので、どうということはないのですが、これに関連して、監査人が、仕入売上取引の実在性を確かめる手続きを行う必要があると言い出したのです。

監査上、B/S項目の監査は、その日の残高がいくらなのかを直接把握することができるためわかりやすいのですが、P/L項目の監査は、要するに1年分の取引の集積となるため、一発でその金額を把握する方法がありません。なのでこの場合、その勘定科目に関連する取引の把握方法や、金額集計に関連する内部統制がどの程度の信頼性があるかを確かめ、その信頼性の程度に応じて、期中からコツコツと取引をサンプリングしつつ見ていくしかありません。

その中でも売上や仕入取引は、通常、会社の根幹となる取引ですから、システムでガッチリ押さえ込まれていることが普通で、内部統制の信頼性もそこそこ高いものです。ですから、通常は、システムの信頼性を確かめつつ、内部統制テストをやっておけば期中監査は終わりで、期末にはカットオフ・テスト(注1)や確認状のロールフォワード(注2)をやっておしまい、という流れになります。

ところが、監査人は、ウチの監査マニュアルでは、債権債務の確認状を決算日以外の日を基準日とした場合には、売上仕入取引の実在性テストをしなければならないことになっている、というのです。つまり、仕入や売上の取引をサンプリングして、その取引の実在性を確かめるということです。

ちょっと待って。それってものすごい件数をこなさなきゃいかんのではないの?と私が言うと、まあそういうことなんです、これを1~2日程度でいっぺんにやってしまいたいんです、資料集められますか?という感じで申し訳なさそうに頼んできたわけです。厳しいねえ。ウチの内部統制レベルってそんなに低いかなあ。昔はそんな依頼をしたらクライアントに怒られる、とか言ってたもんだけどねえ。時代は変わったなあ。

その昔、私は学校法人の監査をいくつか担当していたのですが、通常の事業会社の監査日程と違い、毎月数日(2~3人で2日前後)ずつ行くような感じで日程を組んでいました。もちろんそれは、制度上の制約があるというわけではなく、むしろ監査チームの昔からの慣習といった感が強く、学校側も、監査人は毎月定期的に来るものだという認識ができあがっていたことから、これを変えずに続けていたのだろうと思います。

比較的余裕のある時期ならいいのですが、中間監査などの忙しい時期に、1日だけ学校法人の日程が入っていたりするとウザイと思ったものですが(学校法人の方すみません!)、今にして思えば、月次決算が締まった頃にあわせて、毎月クライアントに出かけていって中身を見る、というこの方法、取引記録の実在性を確かめるためにサンプル数を増やすにはいちばんいい方法だったのではないかな、と思うのです。実際、期中は取引記録を見る監査手続が中心で、期末前になるとその調書が結構な分厚さで溜まります(それだけで仕事した気分になってはいかんのですけど)。

自分もそうですが、なんとなく、今の監査手続が先進的で、昔の監査手法はフィーリングだけでやってた、といったような印象を持っている監査スタッフが多いのではないかと思います。でも、昔の手法も、振り返ってみれば意味のあることをやっていたわけで、無碍に切り捨てるのはもったいないような気がします。


(注1)決算日を境にして、計上漏れや前倒し計上がないかどうかをチェックする手続。
(注2)残高確認の基準日を決算日より前の日で実施した場合、その基準日から決算日までの残高の動きを追いかけ、期末日の残高の信頼性を確認する手続。

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