2008年10月30日木曜日

時価会計の運用見直しを決定??

☆☆☆

実は私、「時価会計見直し」論がどのように報道されているのか、あまりきちんと読んでいませんでした。なので、ロイターの報道「時価会計の運用見直しを決定=企業会計基準委」の見出しを見て、ひっくり返りそうになりました。

しかしえらい違いです。前回書いたように、私はあの実務対応報告を読んで、そうやすやすと与しないぞ、という、企業会計基準委員会の意思を感じました。ところが報道は「運用見直しを決定」だと!?オレはだまされたのか!?

そこでもう一度、件の実務対応報告を読み返してみました。そしてロイターの報道文を読み、また実務対応報告を読みました。。。何度読んでも、「運用見直しを決定」したようには読めません。私は馬鹿なのだろうか?

ロイターによれば、「金融商品が流動性に欠け、いわゆる『投げ売り』による市場価格が成立した場合は、その金融商品の評価に理論価格を用いることを容認する公式見解で、企業にとっては時価会計の適用が事実上、緩和される。」と報道されているのですが、私にはどうしても「緩和され」ているようには思えません。私が前回引用した箇所「本実務対応報告は、現行の会計基準等を踏まえた実務上の取扱いを確認するものである。」のくだりは、報道では完全に無視されています。これはおためごかしだ、とでもいうのでしょうか?

市場価格を時価(fair value=公正価値)とみなしてよいのは、市場が市場として成立している状況であることが前提なのは、会計の専門家なら言わずもがなです。とはいえ、どのような状況をもって「市場が成立していない」と判断するのか?投売りってなんなの?同じ市場で価格がついている金融商品について、ある会社はその市場価格を採用し、ある会社は理論価格を採用する、ってこともありうるよね。そんなの許されるの?市場価格と理論価格が大きく乖離していたら、それはどう説明するの?いくら理論価格で評価しても、その金額では売れないんでしょ?売ったら売却損が出るんでしょ???

疑問だらけです。監査人がそう簡単に、市場価格と大幅に乖離する理論価格を許すとは思えません。

回復の可能性がある、として減損を逃れようとする会社が出てくるかもしれないな、とは思いましたけどね。。。

なお、実務対応報告は、ここです。公表から2ヶ月間は会員でなくても読めます。ぜひ読んでください。

☆☆☆

2008年10月28日火曜日

会計は現実を映す鏡

☆☆☆

新たなシリーズものが始まったとたんに脱線ですが、今日のテーマは、「会計の本質」についてです。偉そうなテーマですね。

私は会計の仕事をし始めたころから、「会計は現実を映す鏡」だと思っています。鏡は現実をありのままに映すもの、と思っておられる方も多いかと思いますが、実はそうではありません。鏡がゆがんでいると、当然そこに映る像もゆがみます。そこに映る像は、鏡の状態によって決まるわけです。

でも、その鏡に映っている現物はひとつです。いろんな形の鏡に映せば、鏡の数だけ像が浮かび上がることになりますが、実際の現物はひとつしかないのです。

会計もまた同じ。会計という鏡を使って取引を映すと、そこにはある形の像が浮かび上がります。でも、その対象物である取引はひとつしかありません。ひとつしかないのですから、会計という鏡の形をいろいろ変えて、いろんな像を浮かび上がらせようとも、対象物はひとつなのですね。

最近どうも、時価会計に待ったをかける論調があるようですが、これに同調する方々は、会計という鏡の形を変えたところで、現実はひとつだけ、ということを肝に銘じるべきである、と思うのです。

(20:34追記)

本日、企業会計基準委員会から、「金融資産の時価の算定に関する実務上の取り扱い」が公表されました。何が書いてあるのかと思えば、何も新しい内容はありませんでした。しかもわざわざ、「本実務対応報告は、現行の会計基準等を踏まえた実務上の取扱いを確認するものである。」なんて書いてあります。企業会計基準委員会の強い意志を感じますね。

☆☆☆

2008年10月25日土曜日

監査スタッフの心情



えー。マニアックなこばんざめであります。そう言っていただけるなら、内心してやったり、ですw

ここであんまり教科書チックな話をしても仕方がない、と思うのです。たまにはそういうのもいいですが、私がそういうことをここに書くと、おそらくボロが出ます。なので、そういう話は、巷のテキストをお読みいただいたほうが怪我が少ない、と思われます。

さて、そういう意味では、前回、財務諸表監査における内部統制の評価ステップについて、やや舌足らずではありますが教科書チックなことを書いた部分がありましたので、今回から、そこに焦点を当ててマニアックに行ってみようと思います。

理屈は簡単です(実践は難しいですが)。
1. いろんな環境調査から、監査リスクを抽出する。
2.リスクの重要性から、監査要点とするorしないを決定する。
3.そのリスクを低減する社内手続(コントロール)の有無を確かめる。
4.コントロールの仕組みを評価する。
5.コントロールの運用状況を評価する。
6.5までの結果を前提とした残存リスクを決定する。
7.6の結果に基づき、期末残高の監査手続を決定する。

この手順、どこかで聞いたことはありませんか?何かで見たことはありませんか?そう、1から6は、内部統制報告制度におけるリスク評価手続そのもです。何のことはない、実は監査人も、おんなじことをやっていたのです。

それでは次回から、この過程で、監査スタッフの心情に想起される陥穽について考えてみましょう。

2008年10月21日火曜日

架空取引をなくそう

---

まずは前回(正確に言うと前々回?)の補足から。伊藤忠の公表資料に再発防止策が記載されています。そこには、この取引が主に陸送であったため、船荷証券等の発行を伴わない取引であった、とはっきり書いてありました。実際、このようなナンチャッテ三国間取引(意味不明w)は、特殊な取引というわけではなく、よくある話です。ますます間に商社が噛む理由がわからんのですが、まあ、メーカーと最終需要家を結ぶ流通ルートは、取り扱い品目によって固定化されているのが現実ですので、「○○向けに△△を売るならウチを通せ」「××から□□を買うならウチを通せ」と言われることはしばしばです。

三国間取引に限らず、直送取引全般に言えることですが、本当にモノが動いてるのかどうかわからない。メーカーから納品書が来て、需要家から受領書が来て、両者を照合して初めてモノが動いたことが確認できます。で、実際には、そこまでやっていると胸を張れる会社は少ないでしょう。なぜやっていないかというと、そういった照合をやったあとで仕入・売上を計上していたのでは間に合わないからです。そうすると、たとえば出荷報告をとりあえず電話やFAXで受け取り、仕入・売上を計上して、正式な証憑は後付け、といった感じになるでしょう。

そうすると何が起こるか?人間誰しも、必要なものは見ますが、必要性を感じないものは見ませんよね。たとえば仕入・売上の入力担当者は、出荷報告がいつ来るのかと気を揉むことでしょうが、当面入力に必要がない売りサイドの証憑は気にしないと思います。入力が終わって、後付けで送られてくる証憑なんて、だれが気にしますか?業務上のルールとして、両者を照合すること、となっていたとしても、その照合を怠ったからといって仕事がストップするわけではありません。ですから、その照合作業に気合が入ろうはずがありません。

さて、こうした状況を踏まえて、監査人はどう判断するのでしょう。まず、監査要点として「直送取引の実在性」という事項が掲げられます。監査要点というのは、監査上の心証を得るべき目標といった意味で、財務諸表監査において内部統制の信頼性を確かめる場面にあっては、業務フロー上で抽出されたリスク・ポイントの中から選定されます。ですから、リスク・ポイントを監査要点として掲げるかどうかは、その監査要点の固有な重要性、他の監査要点との重要性とのバランス等を考慮して決定されることになります。ただ、たとえば商社の監査で、直送取引の実在性が監査要点として掲げられないケースは、まず考えられません。

次に、会社はこの監査要点に対して、どのようなコントロールを行っているか、そしてそのコントロールは仕組みとして有効かどうか、について検討することになります。その結果がOKなら、その仕組みどおりの運用が実際に行われているかどうかを検討します。そこまで行って、エラーが発見されなければ、内部統制の信頼性が高い、と判定されます。なので、今回のケースでは、形式上の証憑類がきちんと揃っており、そこから物流が伴っていないことを確認することは困難だった、ということが事実である限り、この内部統制の信頼性は高い、という判定になったことだろうと思います。従業員のコントロール手続きに身が入っていなくても、証憑が揃っていれば問題となりません。

ところで、ここで最も重要な事実は、この取引が架空仕入と架空売上であったわけで、はっきり言ってしまえばでっち上げの証憑が、本物の証憑の中にたくさん混ざっていたということです。そして、それをだれもが8年もの間、でっち上げであることを気付かずに今日に至ってしまったわけです。このあたりが、内部統制の限界であり、内部統制に依拠する監査の限界であろうと思います。社外の者との共謀による証憑の偽造・改竄・捏造は、最もその正体を見破りにくいものなのです。ただ、捏造であるがゆえに、「証憑がきちんと揃いすぎている」というケースが考えられます。しかしそれをもって「怪しい」と思い、追加的な監査手続を実施するかと問われれば、それはないでしょうね。。。

そこで、伊藤忠の公表資料では、再発防止策として、通関書類に加えて物流業者の荷受書等の入手・確認により、実質的な物流の存在を検証することを更に徹底する旨が書かれています。しかし、実はこれでも完璧ではありません。架空循環取引によくある手口なのですが、ひどいのになるとモノまで実際に動かします。商社や問屋の間で在庫を転がすのです。物流業者の証憑なんて、貴重品ならともかく、受領物の内容が正確に書いてあるわけではありませんから、運ばせる物は何でもよく、数量なんて適当でよかったりするわけです。それこそピーナツが6個でも何でもよくて。。。あ。。。歳がばれますね。。。

というわけで、私は勝手に、この手の不正や粉飾を、ステルス型なんて呼んでます。加ト吉の循環取引も、やはり取引先への金融支援に端を発するものです。こいつを撃退するのが私のテーマなんですが、なかなか難しい。直送取引が常態の商社にあって、自律的に架空取引があぶりだされるようなコントロールなんて、ありはしないのです。ここが怪しい、ということで特別調査と言えるほどの広範囲な調査をやれば見つけられるでしょうが、普段の内部監査や会計監査人の監査では、そもそもサンプルとして抽出された取引がヒットする確率なんぞを考えると絶望的ですらあります。

もちろん、悪いことをすれば、いずれはばれます。今回題材にした伊藤忠のケースでは、「回収遅延が発生」とあることから、架空取引をもってしても不良債権の発生を防げなくなってしまったわけですし、加ト吉のケースでは、会計監査人に通報があったということです。ただ、いずれ見つかるとは言っても、やはり長い。長期間見つからずに不正をし続けることができる。そして、短期間のうちにタイムリーに見つけることが困難である。そういうことが原因なのかどうかはわかりませんが、ネットで「循環取引」などと検索してみると、えらいたくさんヒットします。何とかならないものか。もうちょっと考えます。

蛇足かもしれませんが、ひとこと。一応、当初の疑問「会計士は何やってんの?監査やってたんでしょ?」という疑問に答えたつもりです。べつに遊んでるわけではないのです。不正や粉飾をやるほうも隠すのに必死です。多少はお分かりいただけたでしょうか・・・

---

2008年10月18日土曜日

ビジネス法務の部屋

自分の仕事柄、内部統制とか、粉飾決算とか、不正リスクとか、そういう視点でモノを見る習慣は身に染み付いているのだろう、と思います。そして今は、監査の仕事から離れ、一般事業会社で経理及び経営管理の実務に携わるようになったことから、対クライアントというしがらみから離れて、より主観的に、自らのことこととして考えるようになったような気がします。

もう一度基本から、そして自社の業務上の問題点から、決算・組織・内部統制・不正リスクなどを見つめ直さなくてはならない、そうしないと、ウチは大丈夫です、と胸を張ることはできない、そんなふうに考えながら、いろんな情報収集をしていた折、見つけたブログが、ここ(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/)でした。

思わずコメントをつけていました。私の悪い癖ですが、時として必要以上に喧嘩腰になることがあります。管理者の方は、さぞや不快に思ったのではないでしょうか。しかし、感情的な部分は捨象し、真摯にレスをいただきました。これはうれしかった。

そして今でも、ちょくちょく覗かせてもらっております。そしたらビックリ。私のこのブログが紹介されているじゃありませんか(しかも「必読」だなんて)。思いつきで書きなぐったような文章でお恥ずかしい限りですが、暇つぶしに読んでいただければうれしく思います。

ちなみに、ここは、トラックバックの機能がない、ということを、ブログを開始してから知ってがっかりしました。開始早々、引越しを考えていますww。

2008年10月14日火曜日

伊藤忠で1,000億円規模の架空取引(その2)

営業担当者として、売掛金の回収が滞ったとき何を思うか。ヤバイっ、と思うのでしょうね。回収できなきゃ損失になるわけですから、そりゃ当たり前。で、そこでその現実をどう処理するか。その処理方法の選択。そこにそれぞれの経験や人間性が出てくるのはないでしょうか。

実は、選択肢は二つしかありません。正直に上司に言って善後策を練るか、隠すかのどちらかです。で、この人は隠すほうを選んでしまったんですね。隠すとろくなことはない、というのは普通の発想で、人間追い込まれるととんでもないことをやってしまうものです。それでも、職場の環境や雰囲気に、隠すとろくなことはない、と思わせるものがあれば、また違った選択となっていたかもしれません。少なくとも、この担当者は、事実がばれたときの恐怖感が、隠すとろくなことはない、という発想を上回ってしまった、そういうことなのだろうと思います。

いっぺん隠しはじめると、だいたいは足抜けできなくなってしまうものです。そして麻痺してゆくのです。見つからなければ永遠にやり続けたことでしょう。それは人間心理として仕方がないと思います。やはり、最初の入り口。損失額が大したことがない段階で、隠すとろくなことがない、と思わせる雰囲気や仕組みが会社にあるか。内部統制の本質はそういうところにあるのですが、最近の議論は、なんとなく枝葉末節にこだわりすぎているような気がします。

それでは、これがなぜ防げなかったのか、8年間も発覚しなかったのか。それを検討してみたいと思います。

伊藤忠の公表資料によれば、この三国間取引は、1999年度からスタートし、2000年度になると、得意先(A社グループ)からの支払いが困難になった、とあります。2000年度の当該取引による売上高は530百万円で、翌2001年度は1,951百万円、2002年度は2,922百万円、2003年度は5,541百万円と、すごいスピードで増加しています。

これだけのことで、もういくつかの疑問が湧きます。まず、1999年に始まった取引が、2000年にはもう回収が困難になっているという点です。普通、こんなことはありません。取引を始めて1年以内ですよ1年以内。この会社の与信管理はどうなっているんでしょう。とりわけ、新規得意先の与信調査は、継続案件よりも厳密に行うはずです。当初の計画はどうだったのかわかりませんが、最終的には年間10,000百万円規模の取引になっているんです。与信枠を増やすたびに検討を加えているはずです。

そうすると、A社グループの財務諸表及び与信情報が、当初から改竄されていたとしか考えられません。つまり、このA社グループの信用状況が、取引開始の当初から思わしくない状況だったということです。情報の改竄をやられてしまうと、おそらく与信管理の仕組みでは引っかからないでしょう。その改竄はだれがやったか?担当課長はそのことを知らなかったのか?

それから、このような新規取引に当たっては、通常、取引のスキームや数字の見込みを計画案として作成し、承認を得るような形を取るはずです。取引額の急激な伸びは、計画時点ではどうだったのでしょうか?公表資料では、担当課長から虚偽の説明を受け、取引が順調に推移しているものと誤認したとあります。信頼している部下であれば、これは仕方がないかもしれませんね。。。

次は、その、回収が滞った売掛金の入金をどのように糊塗するか?ですが、この点、伊藤忠の公表資料では、「当社が本仕入先へ本商品の売買代金として支払った金銭は、A社グループへ迂回され、本商品の売買代金の支払いを含むA社グループの資金繰りに充当されていたと思われます。」とあります。
簡単に言えば、売掛金の支払原資を貸し付けた、ということです。会社にばれないように貸し付けるには、売掛金の入金としてキャッシュの移動が生じる必要があるので、一旦こちらから送金して、それを支払わせる必要があります。実際にはL/Cを使っていたようですが、意味は同じです。

そこでまた疑問が沸き起こります。仕入先から資金を迂回させていたということは、仕入先に事情を話して協力してもらわなくてはなりません。そして、そういう協力を仰ぐ仕入先は極力少なくしたい。できれば一つだけにしたいところでしょう。それに、貿易なのですから、正式なContractまたはPurchase Orderに基づいてShippig ListとInvoiceを作成してもらって、さらにB/Lを作成してもらう必要があります。そうしないと、A社グループは伊藤忠に対するL/Cを開設できないでしょう。

ちょっと思いつくだけでも、これだけのことを仕入先にやってもらわなくてはならないのです。もしそうだとしたら、おそらく仕入先に対しても手数料を支払っていたものと思われます。まあ、仕入先の口銭が手数料ということになるのでしょうから、実際には出荷していない仕入先は文句を言わないでしょうけど。

この点、公表資料では、書類は全部揃っていたからわからなかった、とあります。ただし、そこに列挙されている証憑類は、すべて買い手が作成するもので、仕入先が作成するものが見当たりません(ここで言う「請求書」は、仕入先からの請求書か、A社グループへの請求書の控なのか不明です)。三国間取引では、仕入先が作成したB/Lをの写しを商社にも回すのが普通で(原本は貨物受取人へ回付)、これを貨物受け取り後に買い手から入手する証憑と突き合わせるのが常識ですが、公表資料では、支払側の証憑をどのようにチェックしていたのかが、今ひとつ判然としません。もっとも、陸送が同一国内(仕入先もモンゴル国内)の場合、B/Lの作成は必要がないかもしれませんが。

もう一つハードルがあります。仕入先に支払った金銭を、どういう名目でA社グループに送金してもらうか、です。このことについては、公表資料では一切説明がなく、「迂回され」としか書かれていません。仕入先とA社グループとの間には、現物を納品するという以外の取引関係はありませんので、そう簡単には送金するわけにはいかないと思うのですが。。。そうか仕入先では書類だけ作って、売上を計上しなければ、伊藤忠からの送金は丸々裏金になりますね。。。通常の決済口座とはべつに隠し口座を作ってもらってそこへ送金すれば。。。

こうしてみると、この不正を実行するのは、かなり高いハードルをクリアしなければならないことがわかると思います。私なんかは、もうそれだけで、正直に訳を話して損切りするか融資に切り替えるか、上司に決断させますけど。そうしないと、自分の首が飛びかねませんよね。この課長に何があったのでしょうね。

次回は、監査的な視点で見てみようかと思います。

2008年10月11日土曜日

伊藤忠で1,000億円規模の架空取引

ロイターなどによれば、伊藤忠商事は10日、モンゴルの資源会社へ建設機械や資材を販売した貿易取引で、1,000億円近い架空取引が行われていたと発表した、ということです。担当課長が懲戒解雇されたとあるので、横領か?と思いましたが、どうやら違ったようです。詳細は伊藤忠商事株式会社の公式発表(http://www.itochu.co.jp/main/news/2008/pdf/news_081010.pdf)を読んでいただくとして、ここではその内容を検討してみたいと思います。

取引は、モンゴルやロシアなど複数の仕入先から重機械や資材等を購入し、モンゴルの得意先へ販売するもので、商品は直接陸送されていたということです。このような取引は、いわゆる三国間取引と呼ばれるものなのですが、こういうふうにサラッと書くと、その資源会社が直接買えばいいのに、なぜ伊藤忠が間に入っているの?という疑問が湧くのではないかと思います。ひとことで言えば、商社とはそういうもんだ、ということになるのですが。。。何の説明にもなっていませんね。。。

こういった、中間に商社が入って口銭を抜く商売は昔からあります。もともとは、複数の売り手と買い手をつなぐ、いわば商品取引所に似た機能を果たす目的で発生してきたものだと思いますが、今となっては「昔からこうだから」というだけで、意味もなく続いている取引がたくさんあるのではないかと思います。
もう一つは、与信の問題があります。買い手の与信に不安がある場合、その間に立って商社がリスクをとるわけです。そのリスクプレミアムが口銭というわけです。
さらにもう一つ、金融機能もあります。売り手と買い手の代金決済サイトが折り合わないとき、商社が間に立ってこれを調整するわけです。この場合、口銭は利息と同様に考えることができるわけです。
こうしてみると、商社が売上と仕入を両建てで計上している理屈はどこを見ても成り立たない気がしますが、その話はまた別の機会に。

だいぶ脱線しました。で、クビになった担当課長は何をやったのか、というと、カラ仕入とカラ売りです。商品の受け渡しはなかったにもかかわらず、仕入先から仕入したものとして支払いを起こし、その資金を得意先に迂回させた、ということのようです。最初は真っ当に商売をしていたのですが、得意先が資金難に陥って支払いが滞るようになってきてしまった。そこで、得意先を一時的に支援して、取引を継続してもらおう、そういう意図のようで、報道によれば元課長は、「取引を広めようと便宜を図った」と言っているようなのです。この売上に見せかけた貸付は、実に8年間にわたって行われ、貸付総額は1,000億円近くに上るとのことです。

得意先の状況が思わしくなくなってきて、代金回収が滞りはじめたとき、これを焦げ付きとして処理したくないために融資するというのは、よくある話です。典型的な不正への陥穽という気がします。でも、なにやらどうも、腑に落ちない感じがします。さて。。。

2008年10月3日金曜日

監査提言集

いま、私の手許に、「監査提言集」というものがあります。すでにいくつかの会計関連のブログで触れられていますが、これは、日本公認会計士協会の監査業務審査会が会員に配布した小冊子で、ひとことで言えば「監査見逃し事例集」です。それぞれの事例はごく簡単にしか書いてないので詳細は不明なのですが、何が起こって何が問題だったのか、というエッセンスはわかるようになっています。

事例数は43にも上っています。これが何年分なのか不明ですし、「必ずしも事実を記述しているものではない」とあるので一概には言えないのですが、数年前に始まった会計士協会による品質管理レビューで発見された事例なのでしょうから、それだけを考えても、相当数の見逃しがある、ということを予測させます。

で、私としては、個々の見逃し事例の内容よりも、むしろ別のところに目が行ってしまいました。まえがきに、「問題発覚の発端」という項があるのです(以下引用)。

本提言集に掲げた事案例について、記載されている問題事項が発覚することとなった発端としては、次のように理解することができる。
会社が作成する財務諸表に関しては、いろいろな立場の人がその信頼性について注目していることを、監査人としても忘れてはならない。
●会社あるいは監査法人等への内部通報
●行政当局の調査
●会社破綻後の調査
●監査人の問題意識から、過年度財務諸表への影響が発覚
●社内調査
●首謀者の自白
●その他

要するに、発覚の発端は、ほとんど「チクリ」であることがわかります。つまり、監査人が自力で発見した事例は少ない、ということが読み取れます。「会社破綻後の調査」なんて堂々と書いてありますね。

これじゃ、「会社の倒産=監査の失敗」と受け取られても仕方がないですね。。。