2008年11月24日月曜日

株式会社ランド、会計監査人の異動を公表

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株式会社ランドは11月19日、会計監査人の異動を公表しました。その理由については、以下のように書かれております。

「当社は、当社の会計監査人である新日本有限責任監査法人と、当社の連結子会社を含めた事業計画、資金計画について度重なる協議を続けてまいりましたが、物件売却見込等の計画の実行可能性に関し、一部見解の相違が解消できませんでした。」

理由としてはこれしか書かれておりません。これで何がわかるというのですか?期中に監査人を交代したのですよ?もうちょっと説明する責任があるのではありませんか?とも思うのですが、これがこの会社のIRの姿勢なのですから仕方がありません。利害関係者は、ここから“行間を読む”必要があるわけです。

で、何が起こっているのかというと、会社が棚卸資産の時価について検討したところ評価損の計上は不要との結果となったが、監査人がこれに疑義を呈し、会社に対し評価損の計上を迫ったが、会社がこれを拒否した、といったところでしょうか。不動産価格が暴落しているとの噂が飛び交う昨今の状況からすればさもありなん、という気がします。似たような話は、不動産業であれば、多かれ少なかれ出てきているのではないでしょうか。

とはいうものの、半期報告書を提出する直前のこの時期に会計監査人を交代するのは異常事態というほかありません。それに、一時会計監査人(監査法人ウィングパートナーズ)が、棚卸資産の評価損を計上しないとする会社の判断に異議を唱えない、という保障はどこにもありません。一時会計監査人の立場から考えても、前任の会計監査人が異議を唱え、会社がこれに同意しなかったことで監査契約の解除に至った案件に対し、会社の判断を追認するのは非常に勇気の要ることです。

ところで、問題の争点となっている棚卸資産がどれで、その簿価はいくらで、会社が検討した販売可能性というものがどの程度で、結局どのくらいの評価損を出せと言われたのか、といった核心については説明が皆無なので、公開されている情報から推定するしかありません。

連結B/S上、棚卸資産に計上されている額は、2008年2月期で62,480百万円となっていますが、連結財務諸表には棚卸資産の明細が載っていませんので、個別財務諸表を見るしかありません。すると、販売用不動産が10,777百万円、仕掛販売用不動産が39,040百万円、共同事業出資金が1,600百万円、その他が4百万円となっており、残りの11,058百万円が連結子会社が保有する棚卸資産、ということになります。また、付属明細表を見ますと、販売用不動産などの勘定科目ごとに、神奈川県の物件が217戸+3区画で5,934百万円、といったように、地域ごとに簿価が分割されております。

棚卸資産に関する情報を有価証券報告書から得ようとすれば、たったこれだけ、というのが現状です。会計方針として個別法による原価法とは記載されていますが、ああそうですか、と思う程度です。大きな額の特別損失が計上されていないことから、計上額=取得価額なのだろうと推定するくらいです。私が知りたいのは時価情報なのですが、これについては一切の情報がありません。

だからといって想像でモノを言ってはいけないのですが、それを承知で言いますと、おそらく、前任の会計監査人から迫られた評価損を計上すると、最終利益が全部吹っ飛ぶどころでは済まないのだろうな、と思います。何せ、価格変動リスクに晒されている棚卸資産は総額62,480百万円で、一方、2008年2月期の連結最終利益は2,943百万円、同年同期の純資産額は13,964百万円なのです。この会社は2月決算ですから、棚卸資産の評価に関する会計基準の適用は2010年2月期からとなりますので、今期(2009年2月期)の評価損の計上は強制評価減以外にはありません。評価損を計上するとなれば簿価の半額程度の額が一気に損失計上されることになるわけで、評価損を計上する物件の範囲如何では、一気に上場廃止の規定に引っかかる可能性もあります。

個人的には、「期中での監査人の交代」は、そのくらい大きなインパクトがあります、と自ら白状するようなものではないかと思うのですが、会社がそれでも折れなかった、ということは、相当深刻な状況であることが推察されます。新任の会計監査人はどう対応するのか、とても興味深いところです。半期報告書は今月中に公表されるはずですから、注目です。

ひょっとすると、出ないかもしれませんが。。。

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2008年11月15日土曜日

会計監査12ヶ月

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監査スタッフの心情を書きますと宣言してしばらく経ちますが、忘れたわけではありませんw そこで、私の想像なんかを書くより、まずはそういう書き物をご紹介しましょう。

経営財務(注:雑誌の名前です)に、「会計監査12ヶ月」が隔週で連載されています。これがなかなか面白い。とある架空の大手監査法人が舞台でありまして、ここで繰り広げられる人間模様と会計士の心情が綴られております。読んでいて思うのは、とてもリアルであること。某国営放送局のドラマなんぞ比べものにならないリアルさ。

たとえば審査の話。簡単に言ってしまえば、監査報告書に無限定適正意見を付すための承認手続の一つ、です。通常、審査員は、代表社員または社員の中からジョブ・エンゲージメントに対して一人割り当てられます。非公開会社の任意監査などでは書類審査のみ、法定監査なら対面で口頭説明しながら審査を受けます。また、協議すべき特定案件のあるエンゲージメントの場合、上級審査といって、監査法人内に常設された審査会に付議し、合議により審査するケースもあります(このあたりは監査法人によって若干異なるかもしれません)。

まあ要するに、監査チーム外の偉い人に監査の概要を説明して、よっしゃよっしゃと言ってもらう必要があるわけです。そこには審査員の性格、監査チームの責任者と審査員との力関係、過去の歪んだ判断、監査法人の立場、審査制度の弊害など、純粋な会計理論以外の要素がたくさん存在するわけでありまして、案件によっては、それら会計理論以外の要素のおかげで一悶着、ということもあります。

このあたりが、監査チームの面々の心情を織り交ぜながら、かなりリアルに描かれておりまして、私などは読みながらニヤニヤしてしまって、部下に訝しげられております。そこで部下に読ませてみたのですが、経理実務に係わってきた経験が深い人ほど受けがよい、という結果となっております。

おそらく、経営財務という雑誌は、会社の経理部門が購読していると思われますので、ご興味のある方は経理まで足をお運びになり、「ウチで経営財務っての、とってる?」とお聞きになってみてください。

ちなみに、私は税務研究会とは無関係ですw

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2008年11月8日土曜日

会計的感覚の欠如

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最近、八王子自動車教習所が経営破綻し、受講生が路頭に迷うというニュースが流れましたね。経営陣が受講生に対して説明会のようなものを開催している様子が映され、怒号・罵声が飛び交う中、経営陣がひたすら謝っている姿が印象的でした。

それから、託児施設の運営会社も経営破綻したというニュースも。子供を抱えた母親の困惑した表情が流されました。そして経営者の独占インタビュー。カメラの前でひたすら謝る経営者。なんだかどこかで見た光景です。

思えば、経営者が頭を下げて謝る姿というのは、かの山一證券の経営破綻が始まりのような気がするのですが、それから何かあるたびに、経営者が記者会見を開き、言い訳したり誤ったり、なんだかそんなことの繰り返しのような気がして、そうした光景に慣れきっていました。ところが、この自動車教習所の件、託児施設閉鎖の件に関しては、なぜだかそうした光景に違和感を感じました。さて、この違和感はなんだろう?

経営破綻というのは、要するに経営の失敗であります。経営というのは信用により成り立っているのですから、経営に失敗し、信用を失った企業および経営者は、市場から撤退するのがルールです。この、「市場からの撤退」は、経営に失敗した企業および経営者に課されるペナルティである、という言い方もできるでしょう。

どんな経営者でも、自分の会社を大きくしたい、できるだけ長く営業を継続させたい、と思うはずで、わざと倒産させる人はいないはずです。もちろん、詐欺的に計画倒産を画策する人間はいるでしょうが、それはそれ自体犯罪ですからここでは論外とします。

ですから、経営陣は、自らの失敗を認め謝罪し、株主・債権者・従業員・取引先など利害関係者に対して誠実に対応することで、経営に失敗した経営陣の贖罪は全うされるものと思います。ましてや、債権者集会で罵詈雑言を浴びせられる謂れはないし、テレビカメラに向かって謝罪する必要もないと思うのです。

このようなことは、ちょっと考えれば分かりそうなものです。実際、あれはひどすぎるという声があちこちで上がっているようです。なのになぜ、ああなってしまうのでしょうか。払い込んだ受講料がパーになった腹立ちは理解できますが、怒鳴り散らしたところで状況は変化しません。それを証拠に、あの映像では受講生だけが喚き散らしていましたね。おそらく取引先の人たちもそこそこ出席していたのではないかと思いますが、そういう人たちは粛々と見守っていたことでしょう。言うべきことは言う必要はありますが、怒鳴ったり詰ったりしたところで何も変わらないことが分かっているからです(もっとも、そこには報道側の操作がある可能性は否定しませんが)。

これは、会計的感覚の欠如が原因です。もちろん取引先の担当者は自分のカネを損したわけではありませんから冷静でいられるというのはあるでしょう。しかし、社長であれば受講生と同じ立場です。ですが、会計的感覚のある人間なら、この場で罵声を浴びせたりしません。

自動車教習所のような業種では、講習料を前金一括払いにしているケースがほとんどであると思います。英会話教室NOVAの破綻の原因が、常軌を逸した長期の前金制度であったことは記憶に新しいところです。前金を払うことについては受講生もそれなりの決断をしていると思うのですが、そこにどのようなリスクがあるのかを考えた人がどれほどいるのでしょうか。常軌を逸しているのではないかと思われる長期の前払いでさえ、割引という甘い汁に誘われて支払ってしまうのですから、卒業までの期間がある程度予測される自動車教習のような場合、ほとんどためらいもなく支払ってしまっているのではないでしょうか。

ワイドショーのコメンテーターなどが軽々しく「前金で取ったお金は何に使っちゃったんでしょうねー」などと言っていますが、これも会計的感覚が欠如していると言わざるを得ません。前金で徴収した資金は、通常の支払資金に当てるに決まっているじゃありませんか。前金で徴収すること自体が悪であるかのような誤解を与えかねません。

前金を支払うことは、すなわち債権を有することになるのですが、債権には常に貸倒れリスクが伴うものであるということを認識すべきです。もちろん、一般消費者である個人にそのリスクをすべて負わせるのは、取引における力関係から言って公平性を欠くという考え方があって、そのために消費者が保護される(そのリスクが事業者側に転嫁される)制度がありますが、リスクの存在を正しく認識することと、そういった消費者保護行政とは、本来別物であることを肝に銘じておく必要があります。

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2008年11月3日月曜日

危ない社債の評価額

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有価証券の話題をもう一つ。昔話です。

もうだいぶ前の話になりましたが、日経新聞で社債の市場価格をなんとなく眺めていたところ、70円台の数字が目に飛び込んできました。

銘柄を見れば「マイカル」。あ?何だこれ?「償還されれば」確実に儲かるじゃんw買うか?と、冗談半分に同僚と話したことがありました。世間では危ないと噂されていましたが、これは本当にヤバイ状況なのだな、と感じたものでした。その数ヶ月後、マイカルは本当に民事再生法の適用を申請することとなり、ああ本当に潰れた、あの価格は嘘ではなかったのだな、と、改めて思ったものです。

当時は金融商品会計基準の適用が開始されたばかりで、有価証券の減損に関する原稿を書く機会がありました。実務指針の本文を読むと、「個々の銘柄の有価証券の時価の下落率がおおむね30%未満の場合には、一般的には『著しく下落した』ときに該当しないものと考えられる。」とあります。

で、脳裏に浮かんだのが、マイカル社債でした。倒産直前の市場価格が70円以上あったわけですから、下落率は30%未満です。すると、この規定を杓子定規に当てはめると、減損不要になってしまいます。それはおかしい。そもそも、変なオプションやその他付属品がついていない普通の社債なら、そんなに価格変動するわけがありません。80円台に突入したら何かあるといわざるを得ません。ですが、実務指針では、減損を検討すべき価格のボーダーラインについて有価証券をひと括りにして説明しており、債券の取り扱いが分離されていません。

もっとも、減損の検討を行うボーダーラインの設定は、会社が独自ルールを設けることは可能です。しかし、保有社債発行会社のゴーイング・コンサーンに疑義が生じたとして、単価10円20円の減損を認識したところで何が面白いのか?そもそも、ゴーイング・コンサーンに疑義があるなら、社債を債権として評価すべきではないか、という考え方もあります。

しかし、債券を債権として評価してよいのは、当該債券に時価がない場合です。で、市場価格を時価とみなせない場合とは、市場そのものが成立していない場合に限られ、債券発行会社の信用状況が悪化したとき、という条件はありません。また、債権として評価したところで、上場廃止や監理ポスト入り等の措置がなされていない状況であれば、市場価格を覆すだけの根拠がある評価額を導き出せるのか、という疑問もあります。

以上から、結局は市場価格を時価として付す以外はなく、せいぜいP/Lチャージする程度になるだろう、ということで、その原稿には、会社独自の減損検討ルールを設定し、債券に関しては他の有価証券より厳しいラインとすることも考えられる、といった程度の文章にしたような記憶があります。

さて、その当時、マイカルの社債はデフォルトとなって一般ニュースにも頻繁に採り上げられるほど大騒ぎになりましたが、こうした上場社債の会計上の評価額というのは、どのような額を付すべきなのか、非常に難しいと思います。これも、金融に詳しい方にとっては、基本なのでしょうか。

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2008年11月1日土曜日

金融危機対応は、対応した「ふり」?

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前回は、図らずも私の無知ぶりを暴露した形となりましたが、そんなことは棚上げして先に進みます。といっても、またこの話題を引きずるところなど、良識ある市民のやることではないかもしれませんがもう少しお付き合いください。

経営財務2891号に、この話題が載っていたので読んでみました。やはり報道にあるような「見直し」とか「緩和」ということではないようです。ちょっと安心しました。しかし、ロイターのような報道は腹立たしい(なのでちょっといきり立ってしまったわけですが)。普通の株式しか持っていないような会社が、こういう報道を見て勘違い、というか確信犯的に悪用したりしないだろうか、という心配があるからです。まあ、大きなお世話というか、ピントはずれなのかもしれませんが。

また、ASBJは、有価証券の保有目的を、売買目的から満期保有目的へ変更可能とする検討も行っているようです。IASBがそういう改正を行ったことを受けたもので、これも初めて聞いたときは驚きましたが、米国基準ではもともと許容されていたそうです(知りませんでした)。

IASBでは、あくまでも「極めて稀な場合」にのみ認められると言っているようですが、何が「稀」に当たるかどうかの判断は実務に委ねられるとのことです。なんという無責任な。この調子なら、日本基準が改正になっても、まず運用される機会のない条項となるでしょう。だったらそんな改正しなきゃいいのに、と思うのは私だけでしょうか?

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