2009年1月19日月曜日

銀行へ公的資金注入

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巷では有価証券評価損が大変なことになってますね。業績予測を下方修正したり、評価損の総額が80億円を超えると発表する金融機関があったり。それこそ大騒ぎという感じ。とはいえ、これだけ株式相場が下がっていれば、こういった状況は昨年秋口から十分予測できたことで、いわば「想定の範囲内」。それで改めてどうこういうことではないようです。

ところで、金融業でない限り、保有している有価証券のほとんどは「その他有価証券」だろうと思います。その「その他有価証券」の時価下落額がP/L上の損失として計上されるのは、減損による損失しかありえません。基本的には、その減損損失は、通常、取得価額の半分以下になったら計上されるものです。この場合、時価が回復することが合理的に説明できれば損失を計上しないことになるのですが、通常そんなものが合理的に説明できるはずもなく、あえなく特別損失として計上されることになります。そして、減損損失の宿命として、一気に巨額の損失が計上されることになるわけです。

それだけではありません。減損損失の計上に引っかからなかった銘柄でも、時価が落ちていれば、その額まで簿価を切り下げ、その切り下げ額と同額を純資産の部から控除しなければなりません。これを「資本直入法」といって、時価評価はするけれども期間損益とはしないという、なんとも摩訶不思議な会計処理なのです。

ここまではまあ、とっくの昔に時価会計にも慣れて当たり前になったことですし、このご時世なら仕方ないか、で済む話なのですが、仕方がないでは済まされないのが財務規制というヤツです。財務規制で最も有名なのが金融機関のBIS規制でしょう。BISとは国際決済銀行のことで、大雑把に言えば、国際的な取引を行う銀行の自己資本比率は8%以上でなくてはならないというものです。

そこへ今回のような株式相場の下落が起こったらどうなるか?答えは簡単。自己資本比率が急激に下がることになりますね。つまり、資産が減少し、同時に資本が減少したわけです。分子と分母が同額減れば、その割り算も小さくなりますよね。

そこで各銀行は、BIS規制に引っかからないよう、自己資本比率を維持しなければなりません。自己資本比率を上げるのに最も簡単な方法は増資ですが、株価が滅茶苦茶なこのタイミングでは、とても実行できる話ではありません。そこで、資産と負債を減らすしかありません。つまり、先ほどの分母だけを小さくしようということです。

で、何が起こるか、というと、貸し剥がしです。銀行は通常、各企業に対して貸出枠を設けています。たとえば10億円の枠を与えておいて、その範囲内で貸出を行います。ですが、銀行のB/Sには、実際の融資残高とは無関係に、枠として与えた10億円が負債に載ります。貸出だから資産の間違いだろ、と思うあなたは偉いですが、ここでは両建てで負債にも載る、とだけ覚えておいてください。そうすると、貸し剥がしをやれば、資産と負債が一挙に消えて自己資本比率が上がってめでたしめでたし、と相成ります。

貸し剥がしはイカン、とのたまうテレビコメンテーターたちは、この仕組みをどこまでわかってるんでしょうか。イカンのはわかっているしホントはやりたくない、というのが銀行側の言い分でしょう。そもそもお客さんに対して「もうお宅には売りません」というのと同じです。そのお客さんの信用度が急激に下がったのであればともかく、おそらくそれほどでもないところからの貸し剥がしもあるのではないでしょうか。

貸し剥がしがイカンとなれば、今度は何が起こるかというと、「公的資金注入」つまり、政府出資ですね。増資資金を政府が出すことによって自己資本比率を維持しようというわけです。まさに税金を使った損失補填にほかなりませんね。とはいえ、BIS規制に引っかかれば邦銀が国際取引から締め出されるわけですから、政府としても、それしか手段がないとなれば、応じざるを得ないでしょう。

以上、なんとなく腑に落ちないのですが、どうやらそういうことになりそうです。どこか引っかかるんですが、どこなのでしょう。何かがおかしい。何かが。

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2009年1月12日月曜日

経理はバカ正直でいいじゃないですか

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ついに今年が始まってしまいました。この、日本人の年末年始における「区切り感」が私は好きです。「ご破算で願いましては」の感覚ですね。去年はいいことも悪いこともあったかもしれないけど、それはひとまず「ご破算」にして、今年は今年で新たにスタートしましょう、ということなんですね。未来志向ですね。

でも、そうも言っていられないのが今の世界情勢のようで、どこをどう見渡しても暗い話題ばっかりで、こちらまで暗くなってきます。その昔、バブルがはじけたあとの長い不況がありましたが、そのときも、ニュースを見れば、いかに景気が悪いかを強調する話題を繰り返していました。それを見て私の父が、「不況だあ、不況だあって毎日毎日ニュースで宣伝されたら、景気なんか良くなるわけがない」とぼやいていました。まあ実際、そういうところはあるでしょう。経済活動にはリスクが付き物ですから、これだけ毎日のように不況だ不況だと囁かれては、積極的にリスクを取りに行こうというマインドがしぼむのも当然という気がします。

そして、そういう影は、当然のことながら会計にも押し寄せてきます。これは単純に売上が落ちるとか、経費削減とか、そういう話だけではありません。できるだけ利益を減らさないようにしたい、あるいは逆に、来期の損失をできるだけ今期に取り込んでしまいたい、そうした経営者の思惑を押し付けられることが問題なのです。一昔前までは、その思惑をどれだけ聞き入れることができるか、が、経理部長の腕の見せ所のような風潮がありました。こういうときのために、経理の現場では常に「隠し球」を用意しておくものだ、それが賢い経理マンなのだ、というわけです。

皆さん、時代は変わりました。そんなことをやったって、状況は変わりません。経理は馬鹿正直でいいじゃありませんか。私は今年一年、これをスローガンにしたいと思います。

ま、単に頭を使うのがめんどくさいというだけなんですけれどもね。

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