2008年10月21日火曜日

架空取引をなくそう

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まずは前回(正確に言うと前々回?)の補足から。伊藤忠の公表資料に再発防止策が記載されています。そこには、この取引が主に陸送であったため、船荷証券等の発行を伴わない取引であった、とはっきり書いてありました。実際、このようなナンチャッテ三国間取引(意味不明w)は、特殊な取引というわけではなく、よくある話です。ますます間に商社が噛む理由がわからんのですが、まあ、メーカーと最終需要家を結ぶ流通ルートは、取り扱い品目によって固定化されているのが現実ですので、「○○向けに△△を売るならウチを通せ」「××から□□を買うならウチを通せ」と言われることはしばしばです。

三国間取引に限らず、直送取引全般に言えることですが、本当にモノが動いてるのかどうかわからない。メーカーから納品書が来て、需要家から受領書が来て、両者を照合して初めてモノが動いたことが確認できます。で、実際には、そこまでやっていると胸を張れる会社は少ないでしょう。なぜやっていないかというと、そういった照合をやったあとで仕入・売上を計上していたのでは間に合わないからです。そうすると、たとえば出荷報告をとりあえず電話やFAXで受け取り、仕入・売上を計上して、正式な証憑は後付け、といった感じになるでしょう。

そうすると何が起こるか?人間誰しも、必要なものは見ますが、必要性を感じないものは見ませんよね。たとえば仕入・売上の入力担当者は、出荷報告がいつ来るのかと気を揉むことでしょうが、当面入力に必要がない売りサイドの証憑は気にしないと思います。入力が終わって、後付けで送られてくる証憑なんて、だれが気にしますか?業務上のルールとして、両者を照合すること、となっていたとしても、その照合を怠ったからといって仕事がストップするわけではありません。ですから、その照合作業に気合が入ろうはずがありません。

さて、こうした状況を踏まえて、監査人はどう判断するのでしょう。まず、監査要点として「直送取引の実在性」という事項が掲げられます。監査要点というのは、監査上の心証を得るべき目標といった意味で、財務諸表監査において内部統制の信頼性を確かめる場面にあっては、業務フロー上で抽出されたリスク・ポイントの中から選定されます。ですから、リスク・ポイントを監査要点として掲げるかどうかは、その監査要点の固有な重要性、他の監査要点との重要性とのバランス等を考慮して決定されることになります。ただ、たとえば商社の監査で、直送取引の実在性が監査要点として掲げられないケースは、まず考えられません。

次に、会社はこの監査要点に対して、どのようなコントロールを行っているか、そしてそのコントロールは仕組みとして有効かどうか、について検討することになります。その結果がOKなら、その仕組みどおりの運用が実際に行われているかどうかを検討します。そこまで行って、エラーが発見されなければ、内部統制の信頼性が高い、と判定されます。なので、今回のケースでは、形式上の証憑類がきちんと揃っており、そこから物流が伴っていないことを確認することは困難だった、ということが事実である限り、この内部統制の信頼性は高い、という判定になったことだろうと思います。従業員のコントロール手続きに身が入っていなくても、証憑が揃っていれば問題となりません。

ところで、ここで最も重要な事実は、この取引が架空仕入と架空売上であったわけで、はっきり言ってしまえばでっち上げの証憑が、本物の証憑の中にたくさん混ざっていたということです。そして、それをだれもが8年もの間、でっち上げであることを気付かずに今日に至ってしまったわけです。このあたりが、内部統制の限界であり、内部統制に依拠する監査の限界であろうと思います。社外の者との共謀による証憑の偽造・改竄・捏造は、最もその正体を見破りにくいものなのです。ただ、捏造であるがゆえに、「証憑がきちんと揃いすぎている」というケースが考えられます。しかしそれをもって「怪しい」と思い、追加的な監査手続を実施するかと問われれば、それはないでしょうね。。。

そこで、伊藤忠の公表資料では、再発防止策として、通関書類に加えて物流業者の荷受書等の入手・確認により、実質的な物流の存在を検証することを更に徹底する旨が書かれています。しかし、実はこれでも完璧ではありません。架空循環取引によくある手口なのですが、ひどいのになるとモノまで実際に動かします。商社や問屋の間で在庫を転がすのです。物流業者の証憑なんて、貴重品ならともかく、受領物の内容が正確に書いてあるわけではありませんから、運ばせる物は何でもよく、数量なんて適当でよかったりするわけです。それこそピーナツが6個でも何でもよくて。。。あ。。。歳がばれますね。。。

というわけで、私は勝手に、この手の不正や粉飾を、ステルス型なんて呼んでます。加ト吉の循環取引も、やはり取引先への金融支援に端を発するものです。こいつを撃退するのが私のテーマなんですが、なかなか難しい。直送取引が常態の商社にあって、自律的に架空取引があぶりだされるようなコントロールなんて、ありはしないのです。ここが怪しい、ということで特別調査と言えるほどの広範囲な調査をやれば見つけられるでしょうが、普段の内部監査や会計監査人の監査では、そもそもサンプルとして抽出された取引がヒットする確率なんぞを考えると絶望的ですらあります。

もちろん、悪いことをすれば、いずれはばれます。今回題材にした伊藤忠のケースでは、「回収遅延が発生」とあることから、架空取引をもってしても不良債権の発生を防げなくなってしまったわけですし、加ト吉のケースでは、会計監査人に通報があったということです。ただ、いずれ見つかるとは言っても、やはり長い。長期間見つからずに不正をし続けることができる。そして、短期間のうちにタイムリーに見つけることが困難である。そういうことが原因なのかどうかはわかりませんが、ネットで「循環取引」などと検索してみると、えらいたくさんヒットします。何とかならないものか。もうちょっと考えます。

蛇足かもしれませんが、ひとこと。一応、当初の疑問「会計士は何やってんの?監査やってたんでしょ?」という疑問に答えたつもりです。べつに遊んでるわけではないのです。不正や粉飾をやるほうも隠すのに必死です。多少はお分かりいただけたでしょうか・・・

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