2009年2月14日土曜日

あの電卓が欲しい!

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この業界の人は、文房具や電卓など、仕事で使う小物にこだわる人が結構います。このこだわりは、受験生時代に培われるものがほとんどで、かなりの割合の人が、受験生のとき、とりわけ「試験のときに使った」もの(と同種のもの)を、今でも使い続けているものが、何かしらあるのではないかと思います。

そんな小物の中でもこだわりの深いものは、1に電卓、2にポールペン、3に修正液(または修正テープ)、4に蛍光ペン、でしょう。このなかで、2と3は、合格して仕事を始めると使わなくなります。というのは、試験ではボールペンまたは万年筆で答案を作成することが求められていますが、仕事ではほとんどが鉛筆書きになるからです。なので、3は使わなくなり、2は、使っていたボールペンと同じメーカー・同じタイプのシャーペンを求めて、それを使うようになります。

私の場合、電卓は受験のとき(今は無き三次試験)に使ったものをそのまま使っていたのですが、床に落としたおかげで周囲のラバーが外れかけ、液晶部分にゴミのような余計な表示が浮き出てきて、数値が見にくくなってしまいました。1年くらいだましだまし使っていたのですが、だんだん我慢できなくなってきて、新しいのを買おうと決心しました。

それから、家電量販店など、電卓がありそうな店に行くたびにチェックするのですが、私が使っている機種が置いてないのです。なんで売ってないんだろうなあと思い、メーカーのサイトを見てみると。。。見当たらない。んー製造中止になっちゃったのかなあ。

そこで、メーカー名と機種番号を頼りにネットで検索しまくったところ、次のような事実が判明しました。

・日商簿記の検定試験に持ち込み可能な電卓は、四則演算機能のみのものに限る旨の指定がある。
・メーカーが受験用に推奨していた機種(=私が使っている機種)に日付計算機能がついていたが、条件に合わないおそれがあるということで、生産を中止した。
・それに代わり、日付計算機能を除いた機種を新たに生産を開始した。
・日付計算機能を除いていない機種も、新たな機種番号で生産を開始した。

とまあ、こんな感じでした。

というわけで、再びメーカーのサイトで機種番号を確かめつつ、メーカーに直電して聞いてみました。

「えー、電卓についてお聞きしたいんですが」
「どのようなことでしょうか?」
「EL-G36という機種がほしいんですが、なんだか店で見当たらないのですけど、どこで売ってるんでしょうか?」
「あの、この機種は学校用でございまして、一般には販売されていないと思います」

え?・・・そうなの?・・・

「じゃ、直接お宅から買いたいんですけど、どういう手続きしたらいいですか?」
「大変申し訳ございませんが、弊社はメーカーでございますので、直販はいたしておりません」

え?・・・なんで?・・・

「えーと、この機種がほしいんですけど、それじゃどうしたら買えるんですか?」(ややキレ気味)
「申し訳ございません、ここはメーカーのサポートセンターですので、販売経路までは分かりかねます」
「じゃあどうやっても買えないの?」(キレ度合い上昇)
「はあ、申し訳ございませんが・・・」

そこでふと思いました。今持ってるこれは、TACで買ったんだっけ。そうかTACも学校だった。

「そうですかわかりました。お手数をおかけしました失礼します」(キレ解消)

というわけで、TACのサイトを覗いたところ、ありましたありました。何のことはない、通販までやっていました。これで無事入手、と相成りました。めでたしめでたし。

と、ここまで書いてみて思ったのですが、二つほど疑問点があります。
1.これだけの人気機種(ウチに来てる会計士さんたちもみんなこれ)なのに、「学校用だから一般には売らない」というのは、自ら売上を絞っているようなものではないか。なぜ販売先を限定するのか?
2.「メーカーだから直販できない」のはなぜか?

これについては、メーカーに質問してみようと思います。回答が来ましたらお知らせします。お願いしますよシャープさん!

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2009年2月11日水曜日

三菱UFJフィナンシャル・グループが赤字にならなかった理由(わけ)

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前回の続きです。

さて、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、有価証券の取得原価を付け替えることによって赤字を回避しようとしているわけですが、果たしてそんなことが許されるのか、という話でした。そして、取得原価を取得後に変更するのは、誤りを修正する以外にはありえない、ということも直感的にお解りいただけると思います。

この件に関連する一連の合併は、まず親会社どうしが合併し、その後に子会社どうしが合併したという特徴があります。これらの合併における会計処理と、その前後の連結会計との関係が問題の焦点となります。

二つの親会社をP1社、P2社とし、その100%子会社をS1社、S2社としますと、親会社が合併する前の状態は、「P1-S1」「P2-S2」となります。ここでP1社とP2社が合併し、P3社が成立すると、P3社の下にS1社とS2社が別々にぶら下がる恰好になります。この合併前後では、S1社およびS2社の単体の財務諸表はなんら影響を受けません。

その後、S1社とS2社とが合併し、S3社が成立すると、合併消滅会社S1社およびS2社が保有していた有価証券の合併後の簿価は、合併時点に引きなおされることになります。つまり合併新会社S3社にとって、有価証券の取得原価は合併時点の時価となるということです。

さて、これを前提に思考実験をしてみましょう。

S1社とS2社との合併が、連結決算日の前後で、P3社の連結財務諸表がどう変化するか、を考えてみましょう。たとえばP3社の連結決算日が3月31日であるとすると、S1社とS2社との合併が3月31日以前である場合と4月1日以降である場合とで、S3社の連結財務諸表にどのような変化が生じるでしょうか。

勘の良い方ならもう気付かれていると思います。細かいことは別にして、直感的には、どちらでも変わらない、という結果にならないとおかしいのです。というのは、連結会計とはそもそも、連結グループ会社のすべてを一つのエンティティとみなして財務諸表を作る作業であり、合併とは法的に一つのエンティティとなることです。なので、連結上、S1社とS2社が単体でぶら下がっていても、合併してS3社としてぶら下がっていても、連結グループ全体としては変化がない、いわば内部取引にすぎないというわけです。

そんなわけで、S1社とS2社との合併によって有価証券の取得原価が引きなおされた処理は、連結上内部取引にすぎないので、なかったことにしなければならないという結論になります。さてそれでは、連結上の取得原価はどの時点のものを付ければよいのでしょう?それは、P3社がS1社およびS2社を子会社として取得した時点ということになります。つまり、P1社とP2社が合併した時点、となります。

ここまで来れば当てはめをするまでもなく、MUFGがやろうとしていることは、間違っていた会計処理を修正する行為であると言えることになり、無事めでたしめでたし、と相成りました。

検討結果がつまらないものとなってしまったわけですが(私だけ?)、そうは問屋が卸しませんwここからは私の勝手な想像です。

この修正を、なぜ、このタイミングでやるのか?

おそらく関係者は、MUFGの連結財務諸表が「間違っている」ことに、もっと前から気付いていたはずです。多数の専門家が係わっていると思われるMUFGの連結財務諸表の作成過程で、この間違いがずっと今まで気付かれなかった、ということは考えにくいと思います。2007年3月期の中間連結財務諸表の作成過程で気付いた可能性が最も高いものと思われます。とすると、今まで修正するチャンスは2007年3月期、2008年3月期の2回あったわけですが、でも修正しなかったわけです。なぜか?

好意的に解釈すれば、間違いを公にするのは誰かの責任問題となるから言い出せなかった、という純日本人的な発想もあるかもしれませんが、やはり隠し球として持っていたということなのでしょう。こんな間違いがこんなにタイミングよく発見されるなんて、話として出来過ぎています。経営陣は、このアイディアによって「災い転じて福となす」と思って胸をなでおろし、担当者を賞賛しているかもしれませんが、そのような発想は大いなる誤りである、と思います。

MUFGにはせめて、この3月決算の発表時にはきちんと、「間違っていたので直しました」とはっきり言ってもらいたいものです。

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2009年2月8日日曜日

三菱UFJ、奇策で黒字 保有株の簿価変更で損失抑制

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さて、日曜日だし、なんか書こうかな、と思ってネットニュースを見てみたところ、なんだか得体の知れない変なニュースを見つけてしまいました。これは一体何でしょう?

“三菱UFJ、奇策で黒字 保有株の簿価変更で損失抑制”

報道を要約すると、三菱UFJフィナンシャル・グループ2009年3月期の業績予想が赤字転落を免れたのは、保有株式の取得原価を従来より低いものに変更し、減損損失額が減少したためである、ということです。

。。。えーと。まったく意味がわかりませんね。ちょっと報道の本文を引用してみます。

従来、株式の簿価は三菱東京UFJ銀行が発足した06年1月の株価を基準にしていたが、これを持ち株会社の三菱UFJが発足した05年10月に変更。この間に株価が上がったため、簿価の切り替えによって減損処理額が約750億円圧縮できたという。


文中、「簿価」とあるのは「取得原価」の誤りであると思われます(それはそれで、この記者は大丈夫か?とは思いますが、それはまた次の機会に)。で、取得原価を変更するって一体どういうことなの???なわけです。普通はありえない話です。

そこで、三菱UFJフィナンシャル・グループのサイトから沿革を覗いてみましたところ、確かに、三菱UFJフィナンシャル・グループの発足は2005年10月となっており、その子会社に当たる三菱東京UFJ銀行の発足は、その4ヶ月あとの2006年1月になっています。これらの会社は、三菱東京フィナンシャル・グループとUFJグループの合併により発足したものですが、何らかの事情により、その子会社に当たる銀行の合併が、持ち株会社の合併から4ヶ月遅れた、ということになります。どうやらこのあたりに何らかのからくりがあるようです。

これと報道文とを照らし合わせますと、合併に当たって新会社が受け入れた保有有価証券の取得原価を、当初は銀行の合併の効力が発生した日付の時価としていたのを、持ち株会社の合併の効力が発生した日付の時価に変更した、というふうに読み取れます。これはどう考えても、「間違えていたので正しい方向へ修正した」ということでなければ理屈が合いません。それ以外の説明は不可能です。ということは、連結上、子会社の合併時点で取得原価を付け替えたのは誤りで、親会社の合併時点で付け替えるべきであった、と言えねばなりません。

今日はこれで時間切れとなりましたので(何の時間だ?)、続きはまた後日とします。それでは。

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2009年2月1日日曜日

あなたはかんぽの宿、いくらで買いますか?

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残念ながら、私はかんぽの宿に泊まったことがありません。女房の話によれば、とてもきれいで料金も安く、夕食は部屋でとれるし、温泉もあって非常に快適だった、ということです(もっとも、10年以上も前の話ですが)。泊まったことがある人に聞くと、同様に、アレはいいよ、家族で行くならお勧め、と言われます。なのに赤字なのですね。日本郵政株式会社はかんぽの宿事業の収支を公表していませんので詳しいことはわかりませんが、一説によると毎年40億円の赤字が避けられない状況だという話です。

かんぽの宿の歴史は古くて、特殊法人の簡易保険福祉事業団を事業主体として1962(昭和37)年に事業が始まっています。簡易保険加入者向けの保養施設の運営というのが趣旨で、表向きは保険加入者とその家族のみが利用可能な施設でした。保険や年金といえば日銭が入る商売で、運営の当初は保険料が入ってくるばかりで保険金の支払はそれほど多くない。しかも母体は郵政省ですから、加入者予備軍は大量に。。。そんなわけで、ご多分に漏れず、こういった箱物を大量に作ったわけですね。その当時の運用利回りからすれば、そんな施設の建設費や運営経費などを大幅に上回る利回り益を稼ぐことができていたでしょうから、だれも気にも留めなかったわけです。むしろ、加入者への「還元」ということで推奨されたのではないでしょうか。

時代は進んで、保険加入者の所得水準が上昇した、かんぽの宿以外にも保養の選択肢が増えた、事業運営を支える経費が資金運用益では賄えなくなった、など、理由はいくつかあるとは思いますが、その存在意義が少しずつ薄れていった、それにもかかわらず、事業は継続されました。そして気が付けば、簡易保険福祉事業団は大幅な債務超過に陥ったわけです。財務省主計局が平成13年10月16日付で公表した「特殊法人等の行政コスト計算書について」によれば、同事業団の債務超過額は3兆4,891億円となっています。一桁間違っているのではないかと何度も見返してしまいました。もっとも、この中には財投資金の運用失敗による損失が相当程度含まれていると考えられますので、純粋にかんぽの宿事業による累積損失は、この資料だけではわかりませんが。。。

そして、簡易保険福祉事業団は、小泉政権による特殊法人改革の波に飲まれるように、2003(平成15)年3月、日本郵政公社の設立とともに同公社へ統合され、特殊法人としての寿命を終えたわけですが、事業としては現在でも日本郵政株式会社によって運営が続けられています。ですが、日本郵政株式会社法によれば、かんぽの宿事業は、2012年(平成24年)9月30日までの間に、廃止するかまたは事業を譲渡することが規定されています(日本郵政株式会社法付則第2条)。

日本郵政株式会社によるかんぽの宿事業のオリックス不動産への売却は、こういった背景から行われようとしていたもので、事業譲渡は、いわば“規定路線”のはずです。そして事業譲渡を行うなら、まず間違いなくデューデリをやっているはずです。なのに、なぜああいう騒ぎになるのでしょうか。ちょっと理解に苦しみます。デューデリの報告書、バリュエーションの報告書が総務大臣にまで行ってなくてはおかしい。さらに、あの鳩山発言の頓珍漢さが際立っています。

「2,400億円かけて作ったものが、100億円なんてバカなことはない」。

これ、本気で言ったのですかね。だとしたらちょっと恥ずかしい。要するに、「俺はそんな話聞いてねえよ。」と言っているに等しいわけです。100億円の事業譲渡をするのに親会社にお伺いをたてない会社が、どこの世界にあるというのでしょう?大臣は間違いなくこの話をどこかでレクチャーされているはずです。そのあたり、官僚の世界に抜かりがあろうはずがありません。おそらく日本郵政の経営層も、総務省の官僚も、「あーあ」と思っているのではないでしょうか。仕方がありません。説明不足だったと思ってもう一回最初からレクチャーするしかありません。

ところで、その鳩山発言ですが、冷静に考えてみると、そういうふうに誤解してしまう人もいるだろうと想像できます。でも、鳩山さんの発言に疑問を持たない方がおられるとしたら、もう一度冷静に考えてほしいのです。単純に土地と建物を売るわけではないのです。事業を売るのです。買った人は、その事業を継承するのです。そしてその事業は毎年40億円の赤字であるという実績があるのです。その事業を受け継いで自分がオーナーになるのです。不動産を別の用途に使えるじゃないかと思う人がいるかもしれませんが、その土地の時価はいくらなのでしょう?つぎ込んだ金額と今の時価は当然違いますよね。建物だって老朽化します。事業をやめるにしても、今の従業員の処遇をどうするのですか?退職させるのにいくらかかると思いますか?などなど。。。さあ、あなたはこの事業をいくらで買いますか?

念のために付け加えておきますが、100億円という金額が正しいか間違っているかは、私にはわかりません。

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