2008年11月8日土曜日

会計的感覚の欠如

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最近、八王子自動車教習所が経営破綻し、受講生が路頭に迷うというニュースが流れましたね。経営陣が受講生に対して説明会のようなものを開催している様子が映され、怒号・罵声が飛び交う中、経営陣がひたすら謝っている姿が印象的でした。

それから、託児施設の運営会社も経営破綻したというニュースも。子供を抱えた母親の困惑した表情が流されました。そして経営者の独占インタビュー。カメラの前でひたすら謝る経営者。なんだかどこかで見た光景です。

思えば、経営者が頭を下げて謝る姿というのは、かの山一證券の経営破綻が始まりのような気がするのですが、それから何かあるたびに、経営者が記者会見を開き、言い訳したり誤ったり、なんだかそんなことの繰り返しのような気がして、そうした光景に慣れきっていました。ところが、この自動車教習所の件、託児施設閉鎖の件に関しては、なぜだかそうした光景に違和感を感じました。さて、この違和感はなんだろう?

経営破綻というのは、要するに経営の失敗であります。経営というのは信用により成り立っているのですから、経営に失敗し、信用を失った企業および経営者は、市場から撤退するのがルールです。この、「市場からの撤退」は、経営に失敗した企業および経営者に課されるペナルティである、という言い方もできるでしょう。

どんな経営者でも、自分の会社を大きくしたい、できるだけ長く営業を継続させたい、と思うはずで、わざと倒産させる人はいないはずです。もちろん、詐欺的に計画倒産を画策する人間はいるでしょうが、それはそれ自体犯罪ですからここでは論外とします。

ですから、経営陣は、自らの失敗を認め謝罪し、株主・債権者・従業員・取引先など利害関係者に対して誠実に対応することで、経営に失敗した経営陣の贖罪は全うされるものと思います。ましてや、債権者集会で罵詈雑言を浴びせられる謂れはないし、テレビカメラに向かって謝罪する必要もないと思うのです。

このようなことは、ちょっと考えれば分かりそうなものです。実際、あれはひどすぎるという声があちこちで上がっているようです。なのになぜ、ああなってしまうのでしょうか。払い込んだ受講料がパーになった腹立ちは理解できますが、怒鳴り散らしたところで状況は変化しません。それを証拠に、あの映像では受講生だけが喚き散らしていましたね。おそらく取引先の人たちもそこそこ出席していたのではないかと思いますが、そういう人たちは粛々と見守っていたことでしょう。言うべきことは言う必要はありますが、怒鳴ったり詰ったりしたところで何も変わらないことが分かっているからです(もっとも、そこには報道側の操作がある可能性は否定しませんが)。

これは、会計的感覚の欠如が原因です。もちろん取引先の担当者は自分のカネを損したわけではありませんから冷静でいられるというのはあるでしょう。しかし、社長であれば受講生と同じ立場です。ですが、会計的感覚のある人間なら、この場で罵声を浴びせたりしません。

自動車教習所のような業種では、講習料を前金一括払いにしているケースがほとんどであると思います。英会話教室NOVAの破綻の原因が、常軌を逸した長期の前金制度であったことは記憶に新しいところです。前金を払うことについては受講生もそれなりの決断をしていると思うのですが、そこにどのようなリスクがあるのかを考えた人がどれほどいるのでしょうか。常軌を逸しているのではないかと思われる長期の前払いでさえ、割引という甘い汁に誘われて支払ってしまうのですから、卒業までの期間がある程度予測される自動車教習のような場合、ほとんどためらいもなく支払ってしまっているのではないでしょうか。

ワイドショーのコメンテーターなどが軽々しく「前金で取ったお金は何に使っちゃったんでしょうねー」などと言っていますが、これも会計的感覚が欠如していると言わざるを得ません。前金で徴収した資金は、通常の支払資金に当てるに決まっているじゃありませんか。前金で徴収すること自体が悪であるかのような誤解を与えかねません。

前金を支払うことは、すなわち債権を有することになるのですが、債権には常に貸倒れリスクが伴うものであるということを認識すべきです。もちろん、一般消費者である個人にそのリスクをすべて負わせるのは、取引における力関係から言って公平性を欠くという考え方があって、そのために消費者が保護される(そのリスクが事業者側に転嫁される)制度がありますが、リスクの存在を正しく認識することと、そういった消費者保護行政とは、本来別物であることを肝に銘じておく必要があります。

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