2009年2月11日水曜日

三菱UFJフィナンシャル・グループが赤字にならなかった理由(わけ)

☆☆☆

前回の続きです。

さて、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、有価証券の取得原価を付け替えることによって赤字を回避しようとしているわけですが、果たしてそんなことが許されるのか、という話でした。そして、取得原価を取得後に変更するのは、誤りを修正する以外にはありえない、ということも直感的にお解りいただけると思います。

この件に関連する一連の合併は、まず親会社どうしが合併し、その後に子会社どうしが合併したという特徴があります。これらの合併における会計処理と、その前後の連結会計との関係が問題の焦点となります。

二つの親会社をP1社、P2社とし、その100%子会社をS1社、S2社としますと、親会社が合併する前の状態は、「P1-S1」「P2-S2」となります。ここでP1社とP2社が合併し、P3社が成立すると、P3社の下にS1社とS2社が別々にぶら下がる恰好になります。この合併前後では、S1社およびS2社の単体の財務諸表はなんら影響を受けません。

その後、S1社とS2社とが合併し、S3社が成立すると、合併消滅会社S1社およびS2社が保有していた有価証券の合併後の簿価は、合併時点に引きなおされることになります。つまり合併新会社S3社にとって、有価証券の取得原価は合併時点の時価となるということです。

さて、これを前提に思考実験をしてみましょう。

S1社とS2社との合併が、連結決算日の前後で、P3社の連結財務諸表がどう変化するか、を考えてみましょう。たとえばP3社の連結決算日が3月31日であるとすると、S1社とS2社との合併が3月31日以前である場合と4月1日以降である場合とで、S3社の連結財務諸表にどのような変化が生じるでしょうか。

勘の良い方ならもう気付かれていると思います。細かいことは別にして、直感的には、どちらでも変わらない、という結果にならないとおかしいのです。というのは、連結会計とはそもそも、連結グループ会社のすべてを一つのエンティティとみなして財務諸表を作る作業であり、合併とは法的に一つのエンティティとなることです。なので、連結上、S1社とS2社が単体でぶら下がっていても、合併してS3社としてぶら下がっていても、連結グループ全体としては変化がない、いわば内部取引にすぎないというわけです。

そんなわけで、S1社とS2社との合併によって有価証券の取得原価が引きなおされた処理は、連結上内部取引にすぎないので、なかったことにしなければならないという結論になります。さてそれでは、連結上の取得原価はどの時点のものを付ければよいのでしょう?それは、P3社がS1社およびS2社を子会社として取得した時点ということになります。つまり、P1社とP2社が合併した時点、となります。

ここまで来れば当てはめをするまでもなく、MUFGがやろうとしていることは、間違っていた会計処理を修正する行為であると言えることになり、無事めでたしめでたし、と相成りました。

検討結果がつまらないものとなってしまったわけですが(私だけ?)、そうは問屋が卸しませんwここからは私の勝手な想像です。

この修正を、なぜ、このタイミングでやるのか?

おそらく関係者は、MUFGの連結財務諸表が「間違っている」ことに、もっと前から気付いていたはずです。多数の専門家が係わっていると思われるMUFGの連結財務諸表の作成過程で、この間違いがずっと今まで気付かれなかった、ということは考えにくいと思います。2007年3月期の中間連結財務諸表の作成過程で気付いた可能性が最も高いものと思われます。とすると、今まで修正するチャンスは2007年3月期、2008年3月期の2回あったわけですが、でも修正しなかったわけです。なぜか?

好意的に解釈すれば、間違いを公にするのは誰かの責任問題となるから言い出せなかった、という純日本人的な発想もあるかもしれませんが、やはり隠し球として持っていたということなのでしょう。こんな間違いがこんなにタイミングよく発見されるなんて、話として出来過ぎています。経営陣は、このアイディアによって「災い転じて福となす」と思って胸をなでおろし、担当者を賞賛しているかもしれませんが、そのような発想は大いなる誤りである、と思います。

MUFGにはせめて、この3月決算の発表時にはきちんと、「間違っていたので直しました」とはっきり言ってもらいたいものです。

☆☆☆

0 件のコメント: