2009年2月1日日曜日

あなたはかんぽの宿、いくらで買いますか?

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残念ながら、私はかんぽの宿に泊まったことがありません。女房の話によれば、とてもきれいで料金も安く、夕食は部屋でとれるし、温泉もあって非常に快適だった、ということです(もっとも、10年以上も前の話ですが)。泊まったことがある人に聞くと、同様に、アレはいいよ、家族で行くならお勧め、と言われます。なのに赤字なのですね。日本郵政株式会社はかんぽの宿事業の収支を公表していませんので詳しいことはわかりませんが、一説によると毎年40億円の赤字が避けられない状況だという話です。

かんぽの宿の歴史は古くて、特殊法人の簡易保険福祉事業団を事業主体として1962(昭和37)年に事業が始まっています。簡易保険加入者向けの保養施設の運営というのが趣旨で、表向きは保険加入者とその家族のみが利用可能な施設でした。保険や年金といえば日銭が入る商売で、運営の当初は保険料が入ってくるばかりで保険金の支払はそれほど多くない。しかも母体は郵政省ですから、加入者予備軍は大量に。。。そんなわけで、ご多分に漏れず、こういった箱物を大量に作ったわけですね。その当時の運用利回りからすれば、そんな施設の建設費や運営経費などを大幅に上回る利回り益を稼ぐことができていたでしょうから、だれも気にも留めなかったわけです。むしろ、加入者への「還元」ということで推奨されたのではないでしょうか。

時代は進んで、保険加入者の所得水準が上昇した、かんぽの宿以外にも保養の選択肢が増えた、事業運営を支える経費が資金運用益では賄えなくなった、など、理由はいくつかあるとは思いますが、その存在意義が少しずつ薄れていった、それにもかかわらず、事業は継続されました。そして気が付けば、簡易保険福祉事業団は大幅な債務超過に陥ったわけです。財務省主計局が平成13年10月16日付で公表した「特殊法人等の行政コスト計算書について」によれば、同事業団の債務超過額は3兆4,891億円となっています。一桁間違っているのではないかと何度も見返してしまいました。もっとも、この中には財投資金の運用失敗による損失が相当程度含まれていると考えられますので、純粋にかんぽの宿事業による累積損失は、この資料だけではわかりませんが。。。

そして、簡易保険福祉事業団は、小泉政権による特殊法人改革の波に飲まれるように、2003(平成15)年3月、日本郵政公社の設立とともに同公社へ統合され、特殊法人としての寿命を終えたわけですが、事業としては現在でも日本郵政株式会社によって運営が続けられています。ですが、日本郵政株式会社法によれば、かんぽの宿事業は、2012年(平成24年)9月30日までの間に、廃止するかまたは事業を譲渡することが規定されています(日本郵政株式会社法付則第2条)。

日本郵政株式会社によるかんぽの宿事業のオリックス不動産への売却は、こういった背景から行われようとしていたもので、事業譲渡は、いわば“規定路線”のはずです。そして事業譲渡を行うなら、まず間違いなくデューデリをやっているはずです。なのに、なぜああいう騒ぎになるのでしょうか。ちょっと理解に苦しみます。デューデリの報告書、バリュエーションの報告書が総務大臣にまで行ってなくてはおかしい。さらに、あの鳩山発言の頓珍漢さが際立っています。

「2,400億円かけて作ったものが、100億円なんてバカなことはない」。

これ、本気で言ったのですかね。だとしたらちょっと恥ずかしい。要するに、「俺はそんな話聞いてねえよ。」と言っているに等しいわけです。100億円の事業譲渡をするのに親会社にお伺いをたてない会社が、どこの世界にあるというのでしょう?大臣は間違いなくこの話をどこかでレクチャーされているはずです。そのあたり、官僚の世界に抜かりがあろうはずがありません。おそらく日本郵政の経営層も、総務省の官僚も、「あーあ」と思っているのではないでしょうか。仕方がありません。説明不足だったと思ってもう一回最初からレクチャーするしかありません。

ところで、その鳩山発言ですが、冷静に考えてみると、そういうふうに誤解してしまう人もいるだろうと想像できます。でも、鳩山さんの発言に疑問を持たない方がおられるとしたら、もう一度冷静に考えてほしいのです。単純に土地と建物を売るわけではないのです。事業を売るのです。買った人は、その事業を継承するのです。そしてその事業は毎年40億円の赤字であるという実績があるのです。その事業を受け継いで自分がオーナーになるのです。不動産を別の用途に使えるじゃないかと思う人がいるかもしれませんが、その土地の時価はいくらなのでしょう?つぎ込んだ金額と今の時価は当然違いますよね。建物だって老朽化します。事業をやめるにしても、今の従業員の処遇をどうするのですか?退職させるのにいくらかかると思いますか?などなど。。。さあ、あなたはこの事業をいくらで買いますか?

念のために付け加えておきますが、100億円という金額が正しいか間違っているかは、私にはわかりません。

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