2009年9月8日火曜日

Jコスト論

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在庫を減らすと利益が減ることがある(とりわけ製造業では、製造間接費が一定であるならば、必ず利益が減る)という状況から、経営者は在庫が増えるような意思決定をしがちだ、というのは、教科書の中だけの話だと思っていました。ところが私の勤め先でも同じような状況が起こりつつあります。どういう方向へ話を持っていけばいいのかと思っているところで、たまたま読んだ本が「トヨタ式カイゼンの会計学」という本でした。

この本で解説されているのが「Jコスト」というものです。「Jコスト」の「J」は「時間(JIKAN)」の頭文字だそうです。著者の主張は、通常の財務会計の考え方には時間の概念がない、ということで、要するに在庫を一定期間持ち続けることで付随的に発生するコストやリスクを、今の会計学では表現できない、だからここに時間の概念を取り入れた「Jコスト」を導入べきだ、というものです。

例えば100個×@1万円=100万円の在庫を1ヶ月間保有することで付随的に発生するコストはなんだろうかと考えます。自社倉庫なら、減価償却費程度でしょう。でも実際には、日々の入出庫管理や実地棚卸をやったりする労力が馬鹿にならないものです。それじゃってんで保管料を払って荷役を全部アウトソーシングすれば、人件費を払うのに比べれば安いもんだ、というような感覚でしょうか。

ところがどっこいそれだけではない。在庫を1ヶ月寝かせるということで、得られるはずの売上は何ぼやったん?という考え方があります。いわゆる機会費用というヤツです。例えばこの在庫の平均的な回転期間が半月だとした場合、在庫の残高が100万円(100個)なら、売上は月商で200万円あるはずですね。そうすると、この在庫を1個1日寝かせると、どのくらいの機会費用となるかを計算すると、

200万円÷100個÷30日≒667円・日

となります。この、円・日という単位が、コスト計算で時間の概念を取り入れた証だというわけです。

で、今度は逆に、この在庫100個を1ヶ月寝かせたらいくらのコストになるかを計算すると、

667円×100個×30日=200万円

のコストが生じている、ということになるわけです。この本では、例えば50個がすでに出荷できる状態であったとして、あと50個トラックに詰めるからあと一日待ってから出荷する、というような状況が、果たしてコストに見合ってるのか、というようなたとえ話で、財務会計とJコストとの違いを解説しています。

確かにこのような指標を導入することは、一定の効果があるでしょう。しかし、、制度会計における利益が増加しなければ、このような指標の導入には意味がありません。この点、この本は、こういった言葉を強調しています。

「本流トヨタ方式の要諦は、自働化を徹底し、ジャスト・インタイムを追求することにある。そうすれば収益はあとからついてくる」

悲しいかな、この本は、「収益はあとからついてくる」という部分の説明がありません。ここを説明しないと現場への導入は難しいでしょう。さて。。。

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2009年9月5日土曜日

在庫を減らすと利益が減る?

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前回ご説明しました、「モノがほしい立場の人が、モノを供給してくれる人に向かって、『明日までに○○を100個ほしい』と要求し、要求されたほうは、その要求があってから作り始める」の部分、ご察しの良い方なら、これはかんばん方式の説明だ、と、ピンときたことと思います。確かにこれなら在庫をゼロにすることだって可能です。ですが、在庫を減らすとどんなご利益があるのか?

通常、在庫を減らすとキャッシュが増える、と説明されます。それはキャッシュ・フロー計算書で、在庫の減少は営業キャッシュ・フローのプラスとして表現されることからもわかりますね。その実態は、ちょっと考えれば納得できると思います。在庫を仕入れると、その代金を支払わなければならないのですから、在庫が増えればキャッシュが減るのがわかると思います。逆に、在庫が減れば(つまり売れれば)収入となりいずれ入金されるのですからキャッシュが増えるのがわかると思います。

つまり、資金繰りが楽になるというわけで、これだけでも在庫減らし運動をやってみようかという気になるというところですが、これがなんと財務会計的には利益が減少してしまう可能性が高いのですね。なぜかというと、通常、モノを大量に一括して買えば安くなるところを、必要に応じてその度に細切れに買うことになるため、仕入単価が上昇するかもしれないのです。そうすると粗利が低下します。また、製造業では、在庫を減らすということは、売れた在庫に比べて残った在庫の割合が小さくなるわけですから、売上原価に配賦される製造間接費が相対的に大きくなって、やっぱり粗利が低下するというからくりです。

こういうことが現実として突きつけられると、損益で業績評価を受ける立場の人たちは、在庫減らしを躊躇することになります。在庫は少ないほうがいいことはわかっていても、結果として在庫を増やすような意思決定を選択する可能性が高いのです。こういう人たちをどうやって説得すればいいのでしょうか。

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